ARTIST INTERVIEW

「見慣れている風景を一行ずらしてみる」witnessの独占インタビュー

人はみんな、お花になりたい。

witness個展「NEIGHBORHOOD」

<2025年4月26日(土)〜5月15日(木)>

マスキングテープを採り入れた独自の手法で作品を手がけるwitness(ウィットネス)。モチーフとして描く花、ペインティングにバグが起きたかの画面構成。人間の記憶や意識のズレを表現し、日常に潜む幸せを掘り起こそうとする彼に話を聞いた。

絵を描くきっかけは?

20代半ばぐらいの頃、ライブペイントに誘われたのがきっかけです。絵は家でひとりで描いてる程度だったので、人に見せるものを描いたのはその時が初めてでした。一晩でひとつの作品を仕上げていくことが楽しくて月に一回のペースで5、6年はやってました。

絵のスタイルや考え方について。

使う筆の種類は少ないです。何種類も使い分けるのが苦手だし、あまりやりたくない。細い隙間も太い筆で塗っていっちゃうし色は干渉しあっていいと思ってます。パッと見て描いたような絵がかっこいいと思っていますし、決め打ちの線が好きではないんで印象だけを描きたい。ただ、マスキングテープを使ってる時点で絵をデザインとして見てる部分もあるので矛盾はしてるんですけど。

マスキングテープを使った手法はどのようにして思いついたのですか?

(ライブペイントは)誘ってくれた友人とふたりでやっていたのですが、ひとりで描くことがあり、その時からマスキングテープを使うようになりました。特に考えがあったわけでなく、画材を準備するのにたまたま買っただけですが、Photoshopでやれることも人力でやるとテープの粘着面を触った時の感じとか、剥がす時に紙が破れて失敗しちゃったという実感があったし、画面に生まれる「ノイズ」が面白くてずっと使ってます。

その手法によって表現しようとするものは?

広告のお仕事をさせていただいたサッポロ(ビール)さんから僕の作品には「可能性が走ってる」と言われたことがあり、可能性はあらゆる方向に開かれていることを表現しているんじゃないかってことに気づきました。

自分はデザイナーだけど陶芸をやってみてもいいし、陶芸家も絵を描いたら面白い。もし、今いる場所でやっていることがうまくいかなかったり、他人と意見が違っていても別の場所に移ったり、自分の才能を違うところに持っていくだけで誰もやってないことが生まれるかもしれない。

絵も見る人によって印象はそれぞれ違って、最近で言えばジェンダーだったり物事に対してみんなが同じ方向を向く必要もない。だいたい人の記憶だって同じ体験をしているはずなのに、それぞれ違うじゃないですか。そんな人の言ってることとやってることのズレの面白さ、僕の作品ではズレたところにパワーがあって、正しい像を結んでいなくてもいいんじゃないかっていうごちゃまぜな部分を楽しんでもらえたらうれしいです。

いっぽうで最近はマスキングテープを使わない作品も手がけています。

20年くらいマスキングテープを使って作品を制作していますが、自分自身ギミックに偏っていると感じてやめた時期があります。「ちゃんと絵に向き合って制作しなきゃダメだ」と思って、ペインティング作品を中心にした展示をやったことがあるのですが、マスキングの作品を見たいというお客さんがすごく多かった。

僕としてはマスキングだけじゃないっていうところを見せたかったのですが、昔から作品を見てくれる人が求めていることには応えたいという気持ちと、それが人とは違う自分の個性なんだと気づかされました。今はマスキングテープを使わない絵の方に興味があるのですが、両方やっていこうと思っています。

花をモチーフにした作品が多いですね。

ちゃんと絵に取り組んでみようと思って練習のためのモチーフとして花を買ってきたのがきっかけです。それまで花にはまったく興味がなかったですし、実家にいる頃も観葉植物はあっても花を飾るという習慣はありませんでした。

色遣いもそれまでのストリートっぽいものからパステルカラーだったりを採り入れるようにしたり、抽象的な線を描いていたところから対象物を捉えて描いてみようと思ったんです。生けていた花が枯れ始めてフレッシュな色から黒っぽい赤紫になったり、形が崩れていくことに魅せられ、描くのはほとんどが花になりましたね。

歩いてて見つけた花の写真をたくさん撮って、後で見返しながら描いてます。絵に起こす時は一枚の写真を分割しディテールにフォーカスしたり、違う角度からのものを描き分けたりと、ひとつの花から何枚もの作品にすることが多いです。そういった感覚はマスキングテープを使う時の編集感覚に似ているかもしれません。

展覧会タイトルは「NEIGHBORHOOD」。

シンプルに近所を見てみるのが楽しいよっていうのがテーマです。普段生活していて楽しいものがないな、と感じることがあったとしても、実は求めてるものは目の前に置かれてるんじゃないかなって思うんです。見慣れちゃってるだけで気づかなかったり、そこにもう一個足したら思いもよらなかったものに変わったり。見慣れている風景を一行ずらすことで全く見たことない風景になるんじゃないか。こういった感覚をもつようになったのも花の絵を描くようになってからです。

花を描いて発見したことは?

最近、人間はお花になりたいんじゃないか?ってことを考えます。道端でリンドウのように小さく健気に咲いている花に目がいくのも花屋で妖艶な色の花を買うのも花を通してその時の自分自身の気持ちや感情の確認作業をしている。自分の姿を花に投影しているんですよね。

よく軒先で園芸をやってる家があるじゃないですか。お花をシェアして、育てている本人はもちろん通りすがりの人も気持ちよくなるっていうことの凄さを最近すごく感じるようになりました。「路上園芸」とか呼ばれてサブカルのひとつとしてあるんだけど、僕はもっと美しさにフォーカスしたものをやっていけたらと思っています。

花を愛でることは、自分自身の心のありようを慈しむこと。花を飾ること、描くこと。日々の“小さき芸術”を発見するwitnessの個展「NEIGHBORHOOD」は、2025年4月26日(土)〜5月15日(木)の期間に開催。

ABOUT ARTIST

witness
witness
witness Born in Fukuoka Prefecture. He creates works that use floral motifs and misalignment to explore new balances. In 2020, he created the rebranding visuals for Sapporo Beer and appeared in the company's commercial for the Hakone Ekiden. He has also produced visuals for companies such as STARBUCKS, MONTBLANC, PARCO, and STARFLYER, collaborated with apparel brands such as BALANSA, and has also done a lot of graphic design and music-related artwork.

ABOUT EXHIBITION

Exhibition

witness 個展「NEIGHBORHOOD」【福岡】

Venue

YUGEN Gallery FUKUOKA
Fukuoka City, Fukuoka Prefecture, Chuo Ward, Daimyo 2-1-4 Stage 1 Nishidori 4F

Dates

2025年4月26(土)〜5月15日(木)

Opening Hours

11:00 AM – 7:00 PM
Closes at 5:00 PM on the final day only

Closed Days

Every Tuesday

Reception Dates

4月26日(土)16時〜19時

Date of presence

4月26日(土)、27日(日)、30日(水)、5月1日(木)

Admission Fee

free

Notes

※状況により、会期・開館時間が予告なく変更となる場合がございますのでご了承下さい。