ARTIST INTERVIEW

ドラァグクイーン、建物を建てない「非建築家」。そして映画評論に全国各地での町おこしと、フィールドを越えて活動するヴィヴィアン佐藤の独占インタビュー。
「見えていないものをみる」
ヴィヴィアン佐藤 個展「proof of absence(不在の証明)」<2024年6月8日(土)〜6月17日(月)>

これまでに描かれたオーラの似顔絵
これまでに描かれたオーラの似顔絵

建築を学び、ドラァグクィーンにして映画批評家。そして、社会を活性化するアクティビストであり現代美術家。現場をひと所にしないヴィヴィアン佐藤の展覧会「proof of absence(不在の証明)」は、多くの要素が幾重にもなって絡み合うミステリーのよう。そこに示されるメッセージとは?

ーー 飾られたヘッドドレスを裏側から覗く展示方法は、グロテスクな印象もあります。

ヘッドドレスはオルター・エゴ(別人格)であり、自分以上に自分らしいもの。その裏側を見せることは皮膚の裏側を見せることといえます。この展示方法のきっかけとなったのが約20年くらい前のラフォーレ原宿での展覧会です。面白いヘッドドレスや可愛いもの、びっくりするようなものを展示して欲しいと依頼があったのですが、私にとってヘッドドレスを脱ぐことは、世界が反転してしまうほどのことで簡単なことではなかったのです。

ヘッドドレスを脱いでオブジェ作品のように展示することはできなかった。そこで何を表現できるかと考えた時に思いついたのが、ヴィヴィアン佐藤の「不在」です。ヘッドドレスは擬似の頭皮であり、それを透明なアクリルの壁の裏側から見ることは世界を裏返しにして見ることも含まれています。「不在/非在」であることと同時に裏側からものを見ることを提示しています。

ーー 作家活動のテーマである「不在」には何が示されますか。

存在の向こう、ずっと遠くにあるイデアです。目の前にはないけれど理想を示唆するようなもの。心理テストの一種であるロールシャッハ・テストで使われる図像を壁一面に展示する作品を発表しました。一枚一枚は半分に折った小さな紙にインクを垂らして形を左右対称にするのですが、ひとつとして同じ形のものは存在しない。それを数メートル幅の壁に反復するように並べていきます。ギャラリーの壁のさらに向こう、無限遠方の先に理想の形があるのではないかと考えたものです。

ーー 対面で描く「オーラの似顔絵」も、そんなどこか遠くにあるアイデンティティを彷彿させます。

20分くらいで一枚の絵を描きます。もしかしたら嘘も含まれているかもしれないけど、家族や近しい人にも話さなかった自分の気持やプライベートを発露するなかで、その人が変わっていくのがわかり、たえず変化する色彩を描いています。初対面でマンツーマン、いきなり2、30分かけて話すことが今の時代ほとんどないので、そういう状況を作り出すこと自体がひとつの作品ともいえます。

恋愛でも友達関係でも人間関係を結ぶということは、多少なりとも傷つけ合うことなんじゃないかと思うんですね。皮膚を通り越して粘膜、血液と身体の裏側まで傷がついていくような接触。オーラの似顔絵は水彩で描くんですけれども、紙もパレットも水浸しになってビチャビチャになった質感は傷ついて荒れた皮膚であり破け出てくる傷跡を想像させます。そして、乾いて完成した絵はかさぶた。

これまでに描かれたオーラの似顔絵
これまでに描かれたオーラの似顔絵

ーー 人間関係の生々しさを絵画の質感で表現する点が、とても面白いです。絵画だけでなく書、立体や映像とさまざまな手法をとるのはなぜですか?

多様なパラメータを使用して次元を越えることに関心があります。私というパラメーターを通しての変換で何が生まれるのか。次元を越えていくことでものの見方を変えていければと思います。

映画批評にしても映画監督やプロデューサーの言いたいことを代弁するのではなく、彼ら作り手でさえ気づかないものを抽出して違う角度からの補助線を引く作業なんです。

そういう意味で、私自身の展示で作品を制作する上で参考にした資料画像や(下絵となる)ドローイングを展示することがあります。美術館やギャラリーに展示されている作品を読み解くのってサスペンスドラマの事件解決の過程とすごく似ていると思うんです。よくドラマで事件現場に残されていた証拠の写真や犯人と被害者の相関図をホワイトボードに書いてあるようなシーンがありますが、まさにあのイメージです。
私の作品がコンセプチュアルだから説明しないとわからないと考えてのことです。作品とはまさに犯罪現場に残された痕跡そのものなのです。

ーー 作品の色や形そのものを楽しむのも大切ですが、ヴィヴィアンさんの意図がわかると見え方は確実に変わりますね。

作品が媒介となって、観て頂いた方々それぞれの内にある創造性が発揮されてこその芸術だと思っています。それには、きれいな形だったり面白いものを作ってお見せることでちょうど半分。あとの半分は鑑賞者やそこに住まう人々や関係を持つ人が作り上げていくことでもう半分が形成されます。都市文化の考察や町おこしでも同じです。

青森の有名なお祭りに、ねぶたがありますね。その由来は諸説ありますが、征夷大将軍として蝦夷征伐のために現在の青森県城にも遠征した坂上田村麻呂を祀る側面があり、青森の地元民の心の拠り所のように見えるお祭りも中央集権的な(東北から見れば)侵略者を英雄視するものとも捉えられるわけです。

建築でも文化でも伝統というだけでは測れないことがある。こんな風にルーツであったり、存在しているものが何であるのかを知ることは大事ですよね。

目の前にある現実と、その裏側に潜む見えないものー非在ーへの想像力を掻き立てるヴィヴィアン佐藤の作品。サスペンスの謎解きのように本質なるものを追求する展覧会「proof of absence(不在の証明)」は6月8日(土)〜6月17日(月)まで。

ABOUT ARTIST

Vivienne Sato
Vivienne Sato
Vivienne Sato
美術家、文筆家、非建築家、ドラァグクイーン。 ジャンルを横断して独自の見解で分析。作品制作だけでなく、「同時代性」を軸に映画、映像、演劇、建築、都市など独自の芸術論で批評を展開している。磯崎新のアトリエでは模型班として勤務。ヘッドドレスの制作ワークショップを日本全国で開催する他〈BARNEYS NEW YORK〉、〈VEUVE CLICQUOT〉、〈LANVIN〉、〈MILKFED〉等のディスプレイに作品を提供。全国で町興しコンサルタント、尾道観光大使、地域創生に関する活動も精力的に行っている。サンミュージック提携タレント。大正大学客員教授。

ABOUT EXHIBITION

展覧会

ヴィヴィアン佐藤 個展「proof of absence(不在の証明)」

2024.06.08(Sat) – 2024.06.17(Mon)

会場

YUGEN Gallery
東京都港区南青山3-1-31  KD南青山ビル4F

会期

2024.6.8 (Sat) - 2024.6.17(Mon)

開館時間

平日:13:00〜19:00
初日・土日祝:13:00〜20:00
※最終日のみ17:00終了
※休館日なし

在廊日

6月8日(土)、9日(日)、10日(月)、11日(火)、12日(水)、15日(土)、16日(日)、17日(月)※6月13日(木)、14日(金)のみ不在

※在廊日は変更になる場合がございますので、最新情報はギャラリーのインスタの固定投稿をご覧ください。

https://www.instagram.com/yugengallery.jp/

入館料

無料

注意事項

※状況により、会期・開館時間が予告なく変更となる場合がございますのでご了承下さい。