ARTIST INTERVIEW

写真家、蓮井幹生の独占インタビュー

「人間の美への情熱は破壊されない」

蓮井幹生 個展「朽ちゆく果てにも美は宿る」

<2025年1月18日(土)〜2月2日(日)>

震災被害に葛藤しながらも「壊れるというなかに美を感じてしまう」と明かす蓮井幹生。かねてから親交のあった窯元〈錦山窯〉から令和6年能登半島地震に被災したことで所蔵する歴代の名品が破損したことを聞き、「不謹慎ながらも」撮影の衝動にかられたといいます。自然の摂理をテーマに作品を発表してきた写真家を惹きつける普遍的な美しさとは? 

ーー錦山窯さんとの出会いは?

3年前に錦山窯さんのギャラリー〈嘸旦(むたん)〉でフリージャズのライブ(※1)を企画した友人がいて、彼からPVの撮影を頼まれて訪れたのがきっかけです。四代の吉田幸央さんと奥様のるみこさんとお会いし「魅力的でアーティスティックな方々だなぁ」と感じて、それから展覧会に伺ったりメールをやり取りする仲です。

ーーそして、能登半島地震。

地震があってすぐ連絡を取り、比較的大きな被害はなかったということで安心しました。震災から間もない2024年3月に東京で展覧会(※2)をするというので伺い、幸央さんから人間国宝である吉田美統(※3)さんの作品も含めてかなりの代表作が落ちて割れてしまったと聞きました。物量的にも割れ方も簡単に修復できるものでもないし、金彩を得意とする窯元ですので金継ぎで直すのも難しく困ったもんだと。

そんな会話をしていて割れた実物も見てもいないのに今回の展覧会のタイトルである「朽ちゆく果てにも美は宿る」という言葉がふっと浮かび、その場で幸央さんに「作品として撮影させてもらえませんか」と申し出ました。覚悟して言いました。完成された器を撮影するならいざ知らず壊れたものを撮影するなんて「なにバカなこと言ってんだ!」って怒られると思いました。

すると幸央さんは「面白いですね。新たな生命を与えましょう。その壊れた作品を美しく写真に撮るということも素晴らしいと思います」とおっしゃって僕に託してくださった。嬉しかったです。

ーーどのように撮影されたのでしょうか?

6月に小松に行き、嘸旦で簡易的なセットを組んで撮影しましたが、設備に限界はあったので改めて僕の長野のプライベートスタジオに持ち帰らせてもらい撮り直しました。

壊れたものとして見るのではなく、新たな存在として見つめてみようと考えました。最初は白い背景で撮影することも考えたのですが、見せたいものが見えてこないように感じた。画としては確かに美しいのだけれど、あまりにもクールで割れてしまったという事実だけしか見えてこない気がしたんです。

背景を黒にすることで色彩や絵柄は映え、割れた形のエッジが立ってきて造形的にも美しい。黒い闇の中に置かれることで大地へと還っていくかのようなイメージとなり、数千年後の未来に掘り起こされる出土品のように見える。

今回のことは悲しいことではあるんだけども、破壊されたことで繊細な作家の情熱や時間が浮き出てきたと撮影をしていて感じたし、プリントして改めて「よくもこれだけのものを描き込んだな」って思います。普遍的な美しさがあるから、丹精込めたプリントそのものの美しさを感じてほしいというところに尽きます。

ーー器に花を生けて撮影した作品もあります。

以前発表した潰したペットボトルに花を生けた作品(※3)がアイデアソースになっています。壊れた器の写真を観た人は、なんらかの切なさとか悲しさを感じると思うんですよ。それは器そのものだけでなく被災された方々や地域への鎮魂、レクイエム。そうした弔いの気持ちや復興再生を願う意味もありますが、破壊され朽ちたものにも美は宿り、そこにまた新しい生命が生まれ育まれていく「循環」を表現したいと考えました。

ーー「自然の摂理」をテーマにされています。

僕は自然は循環だと捉えています。植物は枯れて土に還り、また芽吹く。すべてのものは死と再生の循環。僕の大きなテーマです。輪廻転生というけれど人間も死と再生を永遠に繰り返しています。

人間は自然の循環の中に生きているので、人間を見つめることは自然を見つめることになる。そんなコンセプトで自然を撮り続けています。自然といっても僕の撮影対象は、どこか遠くの島の奇跡の森のようなものではない。自宅の裏にある人工林や近所の整備されないまま枯れて葉が全部落ちてしまった木々などを撮っています。

ーーその意図は?

自然とは手付かずのありのままの姿がきれいということでなく、人間が関わり合うことで自然界の生命が再生し循環していくと考えています。僕はテクノロジーを否定したくはないんです。それによって新たに生まれるものもあって、生きながらえるものがあるから。

人間が関わり前に進むだけでなく停滞し、後退することもある。その全体が自然の摂理。自然の摂理の中で人間はどこまで自然に関わるのがいいのか、自然から何を享受するのかということを美術的な視点で捉えたい。

ーー東日本大震災の時は現地に行って撮影をされたそうですね。

支援活動をするためにわりと早い段階で現地に入ったのですが、写真家である以上記録しておかなければならないと思い大判カメラを持って何度も通いました。陸前高田市で瓦礫の山となった街を撮影していた時、通りがかったトラックから「バカ野郎!何撮ってんだ、見せ物じゃねえ」と怒鳴られました。当然です。

被災され亡くなられた方々のことを考えたら「美しい」なんて口にしてはならないし、僕が家族を失った立場だったら、やっぱり「ふざけんな」って思います。でも、破壊された光景にこれまでに感じたことのない興奮もあり、写真家としてそこに何かしらの美しさを感じてしまいました。アーティストというのは残酷なものです。

ーーその感覚が、今回の作品につながっているのですね。

人間が何かを作り出す時、そこにどうしたって美をまとわせる。壺や器であれば美しさはなくてもいいわけなのに、です。今回の作品も根底にあるのは存在。あるがままのもの。陶器という作品が災害で破壊されたことによって、器という機能を失ってしまった。しかし、そこには確実に存在という事実があります。それこそが、宇宙であり、私たちの「生命」と同義だと思っています。

僕も撮影ではどうやったら破壊された状態が造形的に美しく見えるのか悩み、写真のセレクトもどれがいちばん美しいか迷っている。災害で作り上げたものが破壊され、その事実を前にしても美を求めている自分がいる。残酷です。そんな人間の残酷さがショックであるけれど、美から逃れられないところに人間の存在価値があると感じます。

器も割れずに存在し続けることはないわけで、子供が割ってしまったり自然災害によって一瞬で破壊されてしまう。形あるものはいつかはなくなるけれども、錦山窯の作品のように作家の思いや情念が染み込んでいて、どんな状態になろうとも美は宿っている。それは人間の強さでもある。

こっぴどくやられて洗いざらい破壊されても人間は再生を試みるし、新たなものを作り上げていく。それが生きる力なんじゃないかと思うわけです。器に描かれた絵の美しさは、人間が抱く美や生命に対する情熱、情念であって簡単にへこたれるものではないと信じられます。

形がなくなっても、美を感じるのは人間が手をかけ精魂込めて作る「生きた」過程があるからこそ。生命のプロセスを写し取ったといえる写真展「朽ちゆく果てにも美は宿る」は、2025年1月18日(土)〜2月2日(日)の期間にYUGEN Galleryで開催。その後、3月8日(土)〜3月23日(日)にYUGEN Gallery FUKUOKA、石川県小松市のギャラリー嘸旦(会期未定)へと巡回します。

※1 九谷焼の価値観を発信するイベントのひとつとして錦山窯が企画。「Kinzan Jazz Festival ‒Quiet Brilliance 2021‒」2021年12月4日(土)、5日(日)

※2 錦山窯3代・吉田美統。陶芸における加飾技法の重要無形文化財「釉裏金彩」保持者(人間国宝)に認定されている。

※3  2024年3月24日(日)~3月30日(土)の期間に柿傳ギャラリー(東京・新宿)で開催された展覧会「嘸旦 𠮷田美統 幸央 るみこ みふゆ 太郎」

※4 「無常花」。2021年7月7日(水)~8月1日(日)の期間にWHYNOT.TOKYOで開催された個展で発表。

ABOUT ARTIST

Mikio Hasui
Mikio Hasui
Mikio Hasui
Photographer. Born in Tokyo in 1955. Influenced by his father, an amateur photographer, he began taking photographs at a young age. After dropping out of Meiji Gakuin University's Faculty of Sociology, he studied under art director Takeshi Moriya. As an art director, he has worked on many advertisements and record jackets. He taught himself photography from the age of 30, and became a photographer after holding a solo exhibition in 1988. He attracted attention with his portraits of celebrities in Shinchosha's magazine "03," and has worked in a wide range of fields, including fashion and documentaries. Since around 2000, he has also been shooting movies, producing many promotional videos and commercials. His works are in the collections of the National Library of France and the Shadai Gallery at Tokyo Polytechnic University.

ABOUT EXHIBITION

Exhibition

Noto Peninsula Earthquake Reconstruction Support Exhibition: Mikio Hasui + Kinzan Kiln Collaboration Exhibition "Beauty Resides Even in the End of Decay" [Tokyo]

Venue

YUGEN Gallery
KD Minami Aoyama Building 4F, 3-1-31 Minamiaoyama, Minato-ku, Tokyo

Dates

Saturday, January 18, 2025 - Sunday, February 2, 2025

Opening Hours

Weekdays: 13:00-19:00
Weekends and holidays: 13:00-20:00
*Ends at 17:00 on the final day only

Closed Days

None

Date of presence

to be decided

Admission Fee

free

Notes

*Please note that the dates and opening hours may change without notice depending on the situation.