ARTIST INTERVIEW

「美しきカオスと幸福の空間」若佐慎一の独占インタビュー

招き猫の群れは、人生へのエール

若佐慎一 個展「Super Lucky Cats」

<2025年4月10日(木)〜4月24日(木)>

代表的なモチーフである招き猫に焦点を当てた初の個展「Super Lucky Cats」。かわいらしさとミステリーが半ばする存在を通して表現しようとするものとは。本展は現代のアートの文脈を問い直す試みでもあるという若佐慎一に話を聞いた。

招き猫にフォーカスした展覧会です。

招き猫は10年以上描いてきて代表作になっていながら、そこに焦点をあてた展覧会をやっていないことに昨年気づき、今年は“招き猫年”にしてみようと。

日本画本来の繊細な描写や質感を求めつつ、漫画やアニメといった日本のカルチャー文脈で捉え直す平面作品はこれまで通りですが、立体作品ではフォルムや素材の実験を通して招き猫の持つ存在感やエネルギーをより直感的に伝えられたらと思っています。

平面と立体ではやりたいことは少し違って、これまでは展示をする上でも別々に扱うことが多かったのですが、今回は同じ空間で共鳴し合うことを意図しています。立体の招き猫は特殊な製法によって焼き物とは違う光沢のニュアンスが出て、個人的に面白いものができていると思っています。真っ白な招き猫には神々しさのようなものが表れていて、物体そのものの美しさを感じとってもらえたらうれしいですね。

展示では「群れ」を意識したとか。

招き猫で有名な東京の豪徳寺で数百体が並ぶのを見て、ひとつひとつは可愛いんですが集合した時の奇妙さというか、単なる置物を越えたものを想像するわけです。群れに人の思い、願いが込められたある種の神々しさを想像したところから始まってます。

物量によるインパクトはあると思っていて、他にもすごく大きいとか極端に小さいといったことで人の心がゆれ動くことはあると思うんです。物体が集まるところに生まれるエネルギー、そこで得られる生きる実感のようなものをやりたかった。今回は叶いませんでしたが、フィギュアのようにサイズ、色、形を全部揃えて千体くらい並べる構想もありました。

招き猫には奇怪なイメージもあると思いますが、僕としては幸せになりたいと思う人間の欲求、ポジティブなものを感じ取って欲しいと思っています。人間はネガティブなことに目が向いてしまいがちですし、今はSNSなどの影響で心が苦しくなる人も多く、招き猫の群れが癒しになればいいなと。

異なるものが混じり合うカオス。そこに生まれる美しさをテーマにしてきました。

日本美術において「異界」「異形」との関係性はずっと重要なテーマとしてあって、江戸時代以前の絵画にはこの世ならざるものを可視化しようとする試みがあります。僕は曾我蕭白に強い影響を受けていますが、蕭白は人間の理性を超えた異世界の気配を描いている。それは狂った表現であるものの、ある種の人間らしさが隠さず出てると思うんです。この世ならざる、狂ったものの美しさを僕はポジティブに捉えています。

この世ならざる世界を創造する装置としての招き猫であり、白い招き猫の群れがつくる静謐さとカラフルな作品の《招き猫様》の持つ祝祭性を対比させ配置することでカオスを生み出す。整然とした美しさと狂ってるニュアンスの絶妙なバランスによって、ギャラリー空間が異界に開かれる場になることを目指しています。

カオスこそ日本的な価値観であると。

人間の感覚、価値観がどう作られているかといえば宗教観に行き着く。欧米の宗教観のほとんどが一神教で、基本的にはヒエラルキー構造。日本人の宗教観というと、上も下もなく、崇敬する神様が隣にいたり時には下にもなる。日本人にはヒエラルキー構造という発想がなく、僕は、日本人にはアイデンティティというものはないと思っています。だから、英語の「アート」とも実は相性がよくないんじゃないかと個人的には思ってます。

日本に横文字のアートは根付かない?

僕には無理をしているように見える。アートはアイデンティティから出発するので根本が違う。日本での美術表現は、アイデンティティがないというところから始めないといけないんじゃないかと思っています。

だから、現代美術での日本の本質的な表現というのは、もの派だったり村上隆のスーパーフラットの文脈にしか見出すことができない。現在はポスト・スーパーフラットの時代だと捉えています。僕が影響を受けたアニメのビックリマンはヤマトタケルもブッダも七福神も入り混じって天使もいる。漫画、ゲーム、アニメ的な表現にこだわっている理由のひとつです。

西洋的なアートを異界、異形と捉えれば、それをうまく取り込んで独自の表現が生まれるともいえます。

アートはかっこいいから憧れるにしても、根本が違うことに自覚的でないといけない。欧米の感覚や流行をうまくピックアップして、自分たちのものに落とし込むことができるのも日本人ならでは、といえます。

以前にも話しましたが、日本人には敬意や感謝も含めての「畏れ」の感覚があり、共生の価値観が育まれてきた。インターネット登場以降、価値観や文化の違いが可視化され、カオス化が進む今の世界では共生の道を選ばざるをえない。そこでは日本の価値観が未来へのヒントになると思っています。カオスにまなざしを向けた江戸時代以前の日本美術から現代美術、そして日本のポップカルチャーをつないで新しい表現を未来へと示したい。

僕自身、力強く前向きに生きたいという欲求がある。芸術はそのための方法であって、作品には強く生きることへの願いを込めている。どうせ生きるんだったら、より良く生きたい。より良く生きるための戦いなわけです、人生は。招き猫の群れは、人生へのエールなんです。

日本こそカオスと好相性。ラディカルで目覚ましい日本的なるものが未来を手招きする。若佐慎一 個展「Super Lucky Cats」は、2025年4月10日(木)〜4月24日(木)の期間に開催。

ABOUT ARTIST

Shinichi Wakasa
Shinichi Wakasa
Shinichi Wakasa
Born in Hiroshima Prefecture in 1982. Graduated from Hiroshima City University, Faculty of Arts, Department of Fine Arts, majoring in Japanese painting, in 2008. Completed the master's course at the same university's graduate school in 2010, and completed the doctoral course in 2013. His graduation project was purchased by the university as the top student. In the same year, he won the runner-up prize in the Monthly Art Newcomer Award "Debut". Since then, while exhibiting his works both in Japan and overseas, he has also collaborated with many companies, including traditional craftsmanship "Chososho", New York fashion brand "sawa takai", and "MEMUSE" by Risa Aizawa of Dempagumi.inc.

ABOUT EXHIBITION

Exhibition

若佐慎一 個展「Super Lucky Cats」【福岡】

Venue

YUGEN Gallery FUKUOKA
Fukuoka City, Fukuoka Prefecture, Chuo Ward, Daimyo 2-1-4 Stage 1 Nishidori 4F

Dates

2025年4月10日(木)〜4月24日(木)

Opening Hours

11:00 AM – 7:00 PM
Closes at 5:00 PM on the final day only

Closed Days

Every Tuesday

Date of presence

4月12日(土)、19日(土)、20日(日)

Admission Fee

free

Notes

※状況により、会期・開館時間が予告なく変更となる場合がございますのでご了承下さい。