ーーアーティスト名の「おれちょ」。作品の印象からすると意外な作家名です。
「己を超える」という意味からの造語で、もとはオリジナルキャラクターにつけた名前です。僕の表現は、その時々に向き合うテーマによってスタイルは変化していますが、自分の枠を越えて挑戦するという創作姿勢を表しています。
ずっと本名で活動してきましたが、名前を覚えてもらいたいと思い、2022年に改名しました。作家として活動を始めた頃は、今のようなコンセプチュアルな方向ではなく、外の世界にテーマを探していました。でも、なかなか見つからない。ならば思い悩んでいる自分自身の内面をテーマにすればいいのではないかと考え、その時々に自分が考えていることや乗り越えるための方法を短い文章やタイトルにし、キャラクターに体現させて「おれちょ」と名付けました。
ーーキャラクターをモチーフにした作品がありつつ、現在は主となるのがホログラム作品。きっかけは何だったのでしょうか。
子どもの頃から「ビックリマンシール」が好きで、今もコレクションしてます。いろんなキャラクターがいて宝石のようなキラキラした感じに惹かれ続けていて、今思えばそれが僕の最初の美術的体験だったと思います。
ホログラムは光が当たる角度によって見え方が変わるのがすごく面白いと思っていて、マスキングテープやシート状のホログラム素材を集めてはいたんです。当時は筆で緻密に描く表現にフォーカスしていたので、どう作品に落とし込むかは見えていませんでした。
そこからコロナ禍に入って「何が正しいのかわからない」「見方によって世界が変わる」と考えるようになり、自分の価値観の揺らぎがホログラムの見え方と重なりました。
ーー「世界を形作るのは、人々の認識」だとおっしゃっています。
ものごとの印象や捉え方は人によっても時間によってもまったく違います。例えば駅であれば、学生時代に通学に使っていたときは憂鬱な場所だったけど、今となっては思い出の場所になったりというふうに。自分ひとりが認識していても、他の人も同じようにその存在を認識しているかはわからないですよね。
僕は2000年頃からずっと写真を撮っています。写真は気になった瞬間に撮らないと、その時目にしている光景や存在が消えてしまう感覚があります。また、撮った瞬間の気持ちと時間が経って見返した時に抱く感情には柔らかな変化があります。
さらに、その感情は絵に描くことでも変化し、鑑賞者が見ることで別の解釈が生まれる。ひとつの場所や植物を描いても、捉え方に厚みと幅がある。そんなふうにさまざまな人の認識が混じり重なって世界は形作られていると考えています。
作品のテーマは「視点により創られる現実世界」。多視点で世界と現象を捉え、そのなかから自らの視点を選び取り、現実世界を創ることを表現しています。
ーー柔らかな変化。ご自身にはどんな変化がありましたか?
以前は、きっちり計算通りに描くことが中心でした。「おれちょ(己超)」というコンセプトにしただけに技術を高めようという気持ちが強く、思った通りに手を動かすことに価値を置いてました。筆遣いは結構練習して自分のイメージ通りに描けるようにはなったのですが、今は筆はほとんど使わなくなりました。
今のシリーズ作品ではノズルから絵の具を絞り出すようにして描いているのですが、時間が経つと(絵の具が)広がったり想像しないような変化が起きます。コントロールが難しいのですが、その難しさが面白く、偶然性を受け入れる表現になりました。
ただ、慣れてくると偶然性も分かってくるようになり、コントロールしようとします。それでまたコントロールしづらい表現を探す。その繰り返しですね。現代は情報が多く、なにをするにしても偶然の出会いが少なくなっている気がします。僕もつい検索してしまうのですが、偶然の出会いを大切にしたい。
ーー神園さんはおれちょさんの作品に「日本画のような印象」がある、とおっしゃっていました。
螺鈿や金箔のような日本の伝統工芸や美術品の装飾、それらがもつ美しさは意識していますね。ホログラムの作品では線画表現がメインとなるので、いろいろと制約があるんです。そのなかで植物の美しさを表現するのに日本画の線の引き方、余白の取り方は参考になります。最近は格子状に和紙を貼るシリーズにも取り組んでいます。
ホログラムシリーズは一見同じように見えるんですけど、少しずつ新しいチャレンジをしています。初期の作品は線画を塗るのも一層だったのですが、最近は三層、四層と塗り重ねるなど細かい表現を入れるようになってます。
ーー展覧会のタイトルには「残響」ともあります。神園さんの作品とどう響くか。
神園さんの作品も一見同じように見えるんですが、実は細かな挑戦を続けている。その姿勢にシンパシーを感じます。きちんとした仕事を積み重ねながらコンセプトを洗練させていく姿は修行者のようにも見えて、とても好感を持っています。
今回の展覧会は「見え方が変わる」というテーマ。2人に共通するものですが、僕は角度や光によって見え方が変わることを、神園さんは距離や時間によっての変化を表現している。そうした違いがある二人の作品が同じ空間に置かれたとき、光がどう影響し合うのか。空間全体で体感できるものがどんなものになるのか楽しみです。
ーー鑑賞者にどんな体験をしてほしいと思いますか?
観る方が二人の作品を通じて光を体感することで、抱えている問題や悩みに対する気づきが直感的に降りてきてくれたらうれしいです。自分自身が芸術作品に触れ、価値観を揺さぶられ、自由になれた経験があります。「現代美術は難しい」と構えず、自由に捉えてほしいですね。