ARTIST INTERVIEW

秋元机独占インタビュー

「何を描くかではなく、どう描くか。」

秋元机 個展「Art Room Ghost」

<2025年11月15日(土)〜11月27日(木)>

YUGEN Galleryでは2023年以来の登場となる秋元机。キャンバス画に向き合った前回から2年、制作に対する心境に変化があったという。そこで浮かび上がったキーワードは「図工」。本人に話を聞いた。

ーー「図工室の幽霊」とは?

マンガ、アート、イラストレーションとそれぞれの分野でありがたいことに評価してもらえるようになり、作品を発表してきましたが、いつの間にか「アート」をやろうと気負っている自分に気づきました。

周囲の作家仲間は下の世代ばかりになっていて、僕は美大を出ていないので同世代の作家とのつながりも少ない。気がついたらクラスメイトはみんな卒業していなくなっていた。図工室にひとり居座って絵を描いたり、ものを作っている半透明のよくわからない存在のような感覚があります。といってもおどろおどろしくもなく、ネガティブなものでもない。そんなイメージを投影しています。

ーー「アート」に囚われていた。そう思うようになったのはなぜですか?

去年の暮れに中国のアートフェアに参加したのですが、検閲が厳しく友人の作家が直前になって作品の半分ほどを出品できなくなってしまいました。彼は急きょライブペインティングをやることになったのですが、それがとても素晴らしかった。

一方自分はというと、検閲には引っかからなかったものの作品が保守的になっていると感じてしまいました。検閲を恐れていたつもりはないし、作品そのものが気に入らなかったわけでもないのですが、「これが今の秋元机だ!」と言い切れるようなものが作れたのか。モヤモヤが残りました。

もともと自分はアートを目指していた人間でもなかったのに、「これは描くべきではない」「絵画的なものとはこうあるべき」といったことに囚われていた。そもそもは絵を描いたり、ものを作ったり単に図工好きの子どもなわけで、やってること、作っているものはその時と何も変わらない。気負わずにやれることに立ち返ろうと思いました。

ーーどんなことに取り組んだのでしょうか?

キャンバスに絵具というペインティングの王道画材も自分の感覚とは少し遠くて、表現に煮え切らなさを感じたのは画材との相性だったのかなと思います。じゃ、リラックスして楽しんで使えるものはというと、子どもの頃から馴染みのある紙や鉛筆で、いちばんしっくりくる表現はドローイングなんだと改めて思いました。

落書きというと語弊がありますが、思うがままに描いて、小さいサイズも大きい作品もドローイングならではの筆致の生々しさを見せられるものにしたい。大きな作品にしても机の上で描くドローイングの雰囲気がある表現を追求したいと思っています。

5、6年くらい前からカーボン紙を使うようになったのですが、鉛筆でもなく色鉛筆とも違う筆致が出て、手描きと印刷の間のようなテクスチャーが気に入ってます。カーボン紙を使った質感の作品はぜひ見てもらいたいですね。

ーー2年前の展示では、具象と抽象の間にある表現がテーマでした。

これまでは架空のクリーチャー(創造物)を描くことが多かったのですが、今回は普通に働いている人だったり日常的なモチーフが増えています。具象と抽象の間のゆらぎみたいなことは絵を描いていく上でずっと考えていくとは思いますが、今回は具象ですね。こねくり回していないモチーフの方が、絵としての不思議さや奇妙さが際立つのかなと思います。

今更ながら気づいたのは僕にとって何を描くかは重要でなく、筆致だったり作品の表面の質感が大事だということ。どのようにして描かれるのかに自分が納得できればいい。例えるなら、ギターのエフェクターで違う音色をいろいろ試して、気持ち良い音色が出来上がれば自然と曲になるという感覚です。

ーー質感が作品となる。何を表現しようとしているのですか?

古雑誌やヴィンテージの古着が好きで、自分の作品もずっと昔から存在していたような、いつ・どこで作られたのかが不明な質感にしたい。これは懐古主義とかレトロに興味があるというわけではなく、時間に耐え抜いたものに説得力や心地よさを感じるから。作品に「時間」を潜ませたい。

ーー出来上がったものそのものではなく、プロセス、夢中になって作っている時間が作品だといえますね。

毎回自分の気持ちのいい周波数を探して、それが合うところで作品が出来上がってきます。作品を見てくださる人からは「あの時の作品の感じが好きだから、やって欲しい」というリクエストをもらうこともあるのですが、もう自分的には違うことに興味が移っていて、周波数が変化している。はたから見ると毎回違うことをやっているように見えるかもしれません。

自分としては実験的なことをやっていて、当然失敗するんですけど、そういう時の方が良い仕上がりになって、新しい作品になることがある。失敗したいわけじゃないんですけど、自分の中で失敗は大事なテーマ。それは誰に見せるのでもなく、作ることそのものが楽しいからなんです。だから腕組んで見るようなものでもなく、観てくださる人が漫画とか他の娯楽と同じように楽しんでもらえたら嬉しいです。

友達や先生を笑わせたり驚かせたい。そんな茶目っ気が生きる力となる。そうして過ごした時間から作品は自ずと現れる。幽霊になっているのはアート?秋元机にとって福岡で初開催となる個展「Art Room Ghost」はYUGEN Gallery FUKUOKAにて、2025年11月15日(土)〜11月27日(木)の期間に開催。

ABOUT ARTIST

秋元机(Desk)
秋元机(Desk)
Tsukue Akimoto(Desk)
あきもと・つくえ/東京都出身。ソウル、香港、深圳、台北での個展開催、バンコクや上海のアートフェアに招待作家として参加するなど国内外で作品を発表。受賞歴は2012年「 ほぼ日刊イトイ新聞」 第二回ほぼ日マンガ大賞グランプリ、2017年「 UNKNOWN ASIA Art Exchange Osaka」グランプリ・ファイナリストとしてBenny Au賞、Eric Zhu賞はじめ審査員各賞、2018年TIS(Tokyo Illustrators Society)公募銅賞・伊藤桂司大賞。

ABOUT EXHIBITION

展覧会

秋元机 個展「Art Room Ghost」【福岡】

会場

YUGEN Gallery FUKUOKA
福岡市中央区大名2-1-4 ステージ1西通り4F

会期

2025年11月15日(土)〜11月27日(木)

開館時間

11時〜19時
※最終日のみ17時まで

休館日

毎週火曜日

在廊日

11月15日(土)、11月16日(日)

入場料

無料

注意事項

※状況により、会期・開館時間が予告なく変更となる場合がございますのでご了承下さい。