ARTIST INTERVIEW

HOW WE SEE 独占インタビュー

「見えていないものを、見る」

〈2026年4月25日(土)〜5月31日(日)〉

作風も手法もまったく違う4名が集うグループ展「HOW WE SEE」。脈絡なくバラバラに思える存在が混ざり合うさまは、混沌とした世界を映している。彼らはこの世界で何を見て、何が見えていないと感じるのか。KAKA、持田象二、斉木駿介、天野百恵それぞれに話を聞いた。

「小さくて静かな存在に気づく」 ーKAKA

アーティストを目指したきっかけを教えてください。

小さい頃から漫画やアニメが好きで、もともとは漫画家になりたいと思っていました。中国にいた頃は家族の考えもあり大学では環境デザインを専攻しましたが、「これは本当に自分がやりたいことなのか」と考えるようになりました。

そんな時に日本の木彫アーティスト、田島享央己さん、野原邦彦さん、舟越桂さんらの作品と出会いました。それぞれ表現が違い、一人ひとりの作家の個性があることに魅力を感じました。中国にも伝統的な工芸や仏像はありますが、こんなにも自由で面白い作品が作れるんだと強く惹かれ、木彫への憧れは漫画を越えました。

モチーフとなるのは、キノコや鳥。どんな意味を込めているのですか

キノコと鳥は、自分の二つの内面を表しています。キノコは森の中でひっそり成長していく静かな存在。子どもの頃、悩んだり叱られた時に「キノコみたいに人知れず静かに過ごしたい」と思うことがありました。自分自身の奥底に存在するものの象徴がキノコです。

一方で鳥のように歌い、元気に外へ向かっていこうとする自分もいる。作品を作り続けるなかで正反対の自分がいることに気づきました。

一本の木から形を彫り出す「一木造り」をやる理由は?

木は目の出方や割れ方など表情が一本ずつ違います。一木造りは、木そのものと対話しながら形を見つけていく感覚があるんです。

以前はデッサンを木に写し形をとっていましたが、今は原木の形を見て、像をイメージし、チェーンソーで大きな形を出していく。木をどう見るかによって作品の雰囲気がかなり変わるので、最初の判断はとても意識しています。図面通りに進めるのではなく、どんな形が木の中から生まれてくるかを考える時間がとても面白いですね。

作品で表現していることは?

命のあり方です。キノコは動物でも植物でもなく菌類。私たちの暮らしの中で本当はとても重要な存在であるけれど、気づかれにくい。単に自然の中の小さな命というだけではありません。人の心の中にも普段は見えにくい、小さくて静かなものがある。

仕事やお金、人間関係など外の世界のことに気を取られていると、自分の内側にあるものを見失ってしまう。自分の中にあるキノコのような存在に気づいてほしいと思います。

作品を見て「面白い形だな」「かわいいな」と思うところから、その奥にある小さな命、自分の内側の静かな部分に意識を向けてもらえたらうれしい。普段見過ごしてしまうものに気づくきっかけになればと願っています。

「陶芸の本質に近づき、どこで離れるか」 ー持田象二

ゲームカルチャーを背景に陶芸作品を発表されています。ゲームは、どのような存在なのですか?

埼玉県のときがわ町という自然の多い場所で育ち、山に入るかゲームをするかしかなかったのでゲーム画面の強い視覚性にすごく魅かれていたんだと思います。単なる娯楽ではなく、自分を構成する一部です。

現実は人によって見方や捉え方が違いますし記憶もズレがありますが、ゲームはみんなが同じものを共有している共通言語だと思います。当時やっていたゲームの雰囲気が、自分にとってはすごく大事なんです。

陶芸をやっていく上でどの文脈にも属さないものを作りたいと考えていくなか、ゲームのビジュアルや記憶が自分の表現の核になっていきました。

今回発表したフィギュアシリーズは、チャレンジングな作品だとか。

アメリカの顔料など陶芸ではあり得ない素材を使っています。陶芸にはある種ルールがありますが、それとは違う手法で陶芸をやるというチャレンジです。かなりキャッチーなものになったと思いますし、一見地味な陶芸のイメージを払拭できたのは良かったです。

東京展を観ていただいた方から「楽しい気分になる」と言ってもらえたことが大きかったですね。自分は陶芸についていろいろ考えすぎてしまうところがあるんですが、観る人にとって楽しいものとして成立している。それだけでも十分に意味があることに気づかされました。

表現で意識していることを教えてください。

見たことのないものを作りたい。陶芸を見るとき、どうしても技法や様式から入ってしまうと思うんです。釉薬の色を見て「織部っぽい」と読むような楽しみ方。もちろんそれは陶芸の魅力でもあるのですが、そこから離れたものをやりたい。

陶芸であまり使われることのない素材を試しているのですが、長く使われてきた素材には理由があって、確かにいい結果になることが多い。釉薬の歴史にヒントを得たり、陶芸の本質を突き詰める方が面白いという気持ちもあるのですが、そこから離れたものを作りたいとも思う。その矛盾の中で、陶芸にどこまで近づき、どこで離れるかを考え続けています。

今回のグループ展では、どんな点に注目してほしいですか。

僕自身は陶芸の歴史や技法との距離感についてかなり悩みながら作っていますが、難しく考えすぎずキャッチーさや楽しさを受け取ってもらえたらうれしいです。制作する中で思いがけない表情が出る偶然性が陶芸の面白さでもあるので、同じシリーズの作品にある微妙な違いに注目してもらえると作品の背景がわかると思います。

「時代の違和感を絵画に固定する」 ー斉木駿介

現在の作風に至った経緯を教えてください。

重力がない表現をやりたいと考えていました。絵画をやろうと思ったのも、それが理由です。ネットから得る画像やアニメーションには重さがなく、現実よりも軽く見える。それらを取り入れることで今の情報のあり方に近づけると考えました。

テレビでは深刻なニュースのすぐ後に芸能ニュースが流れたり、とても重い出来事と軽い情報が並ぶ。SNS上では、知り合いではないけれど名前や顔を知っている人がどんどん増えていく。情報は手に入るけれど(人間関係の)重さは感じられない。どこまでいっても他人事のように感じる距離感がある。

こうした情報の流れの中にいて、私たちの感覚は10年ごとに変わっていくと思うんです。日常の中にある違和感に興味があり、時代ごとの違和感を絵画として固定できないかと考えています。

最近、鏡やディスプレイに自分の姿が映り込むことに興味がわいています。鏡に映る自分を見ると、どこか距離があって、自分の足元にあるはずの現実が遠くなり、時間や場所がずれていく感覚がある。そうした現実との距離の取り方を作品の中に取り入れてます。

描き方で工夫されていることを教えてください。

以前は油彩だけで描いていたのですが、今は油彩とアクリルを場所によって使い分けています。油彩は質感や重さ、立体感が出しやすい。現実に自分が知っていて、匂いや感触まで想像できるものは油彩で描くことが多いです。反対に画面上でしか見ていなかったりネットから得た情報、アニメーション的な要素はアクリルでさらっと描きます。情報の重さと軽さといった画面の中に生まれる違いを取り入れてます。

テーマをそのままやると作品が重くなるので、明るめの色遣いは意識しています。とはいえ単純にポップな印象にしたいわけではなく、アクリル絵具やアクリルガッシュならではの発色の悪さが気に入っているので、可愛くなりすぎず、拒絶されない色を探しています。

今回のグループ展では、どんなことを期待されますか?

グループ展には、各作品が独立して並ぶものと作品を混ぜて全体の風景を作るタイプがあると思います。僕は後者が面白い。作品同士が干渉し影響し合って、普段とは違う見え方になることに魅力を感じます。怖さもありますけど。

僕の作品は少しうるさい部分もあるので、(他の作家の作品と)並べるのは申し訳ない気持ちもありますが、表現が違う作品が一緒に並ぶことで面白い景色が生まれるのではないかと思っています。

「変化を誠実に見つめる」 ー天野百恵

天野さんは作品を作るだけでなく、「場を開く」取り組みとして古民家の再生やアートフェアの開催など幅広い活動をされています。きっかけを教えてください。

2010年に出産をし、以前に比べて自由に出歩くことが難しくなりました。そこで、自分にできることは何だろうと考え、家を開く活動を始めました。

アート活動というよりも私が身を置いているアート業界の中だけではない、もっと広い意味でのクリエイティビティに関心を向けるものでした。街づくりや仕事づくり、生き方やライフスタイルの中に創造性はある。そのことを見つめたいと思うようになり、いろいろな人との交流が始まっていったんです。

今回、ご自身の展示のテーマは「life of moment」。

変化していくこと、その時々の自分を見つめるという意味を込めています。きっかけは、素材に対する見方の変化です。以前からプラスチックや樹脂など石油由来の素材を使ってきたのですが、自然やそのエネルギーをテーマにしてきた自分の表現と矛盾を感じるようになりました。

今田舎に暮らしていて自然志向の考えにはなっていますが、現代のインフラや医療などを拒否して生きることはできません。プラスチックは今の生活では親しみやすさや手放しがたさもありますし、その恩恵を私たちは確かに受けている。

作品を作る上でもプラスチックだから表現できる色の透明感など素材としての魅力がある。素材の意味づけは時代の中で変わっていくので、その変化を展示の中に入れていくことが表現として誠実なのではないかと考えています。

絵画から立体表現、そしてインスタレーションとスタイルは変化しています。

絵画的なものの見方は今も土台としてありまが、私は「これを見せたい」という対象を明確に指し示すために絵を描いていたというより、何かと何かの関係性、そのあいだに生まれる空間、距離、響き合いのようなものに関心があったんだと気づきました。

最近は時間の要素までが作品に入ってきていたり、鏡の上に油絵を描くといった方法にも惹かれています。

変化し続ける創作ですね。何を感じてもらいたいと思いますか。

その時々にいる「場」で人と作品同士が関係し合っていること、時間のなかで自分自身が変わっていくことを感じてもらえたらと思っています。私自身も(作品や制作に対する)答えがはっきり決まっているわけではなく、会期中に展示を変化させようと考えています。その変化も作品や展示の一部として見てもらえたらうれしいです。

KAKA、斉木駿介が見つめるのは膨大な情報が行き交うネットワーク社会で消え去りかねないもの。それは、なくしたら取り返しのつかない大切な存在であることを予感させる。持田象二と天野百恵は矛盾を抱えつつ、時代や社会の変化を受け入れ、誠実に前へ進もうとする。快適と便利を高速で追求する今、「あなたは何を見るのか」。グループ展「HOW WE SEE」はYUGEN Gallery FUKUOKAにて5月31日(日)まで開催。

ABOUT ARTIST

天野百恵
天野百恵
Moe Amano
アーティスト/美術家。 1982年福岡県生まれ、福岡県糸島市在住。九州産業大学芸術学部美術学科(油彩画専攻)卒業。絵画制作やインスタレーション展示、また作品制作と発表だけに囚われない活動や企画、暮らしも含めた表現活動を展開。日々の暮らしと表現活動を地続きにすることで、既存の固定観念に縛られないクリエイティブな暮らし・活動・新しい生き方の研究・実践を行っている。
KAKA
KAKA
カカ/木彫家。1995年中国生まれ。2021年、女子美術大学大学院美術研究科美術専攻博士前期課程修了。 平安時代の「一木(いちぼく)造り」という伝統的な立体技法を基盤に、生命の生成と変容を主題として制作を行っている。素材としての木と向き合う中で、完成された形態のみならず、彫る行為に内在する時間性や身体性そのものを表現の核として捉えてきた。 近年展開する「茸鳥」シリーズでは、菌類と鳥という異種の存在を融合させ、進化の過程や種の境界が揺らぐ生命観を造形化している。環境に応答しながら姿を変えるきのこの性質は、作家自身の内的感覚と重ね合わされ、彫刻は単なる象徴を超えて、生命の循環や不可逆的な時間の流れを内包する存在として立ち現れる。素材の質感と形態の均衡を重視し、意味を過度に規定しない造形は、鑑賞者に多層的な解釈の契機を開いている。
斉木駿介
斉木駿介
Shunsuke Saiki
1987年福岡県生まれ。九州産業大学芸術学部卒業。漫画やアニメーションといったサブカルチャーからの影響を起点に、映像やインターネット、スマートフォン以後の視覚環境を背景とした制作を行っている。 シミュレーショニズムやサンプリングの思想に影響を受け、既存のイメージや情報を引用・再構成しながら、リアルとフィクション、日常と仮想が交錯する現代の感覚を可視化してきた。近年は、グリーンバックやキャンバスにグリーンを作品の支持体に用い、その機能を反転させることで、本来は背景を消去する装置が「消されるもの」「残らないもの」を照らし出す構造を探っている。排除され、可視化されないイメージに意味を見出しながら、現代のイメージ環境を問い直している。
持田象二
持田象二
Shoji Mochida
1993年埼玉県生まれ。陶という実用と美術のあわいに位置する素材を用い、用途や完成度といった価値基準を相対化する表現を行っている。大学在学中より、料理人の現場や陶芸商を通じて「使われる器」と「見られる器」の双方に接し、陶芸の歴史と現場性を身体的に学んできた。 「#figure」シリーズでは、窯変や釉剥がれ、ピンホールといった本来は欠点とされる現象を、ゲームにおける出現率が低いモンスターを指す言葉「レアポップ」になぞらえ、偶然性を孕んだ存在として提示する。器に現れれば廃棄される部分をあえてフィギュアとして成立させることで、陶芸における失敗と成功の境界をずらし、鑑賞の視点そのものを問い直している。

ABOUT EXHIBITION

展覧会

グループ展「HOW WE SEE」【福岡】

会場

YUGEN Gallery FUKUOKA
福岡市中央区大名2-1-4 ステージ1西通り4F

会期

2026年4月25日(土)〜5月31日(日)

開館時間

11時〜19時
※最終日のみ17時まで

休館日

毎週火曜日

在廊日

未定

入場料

無料

注意事項

※在廊日やレセプションについて、最新情報は随時こちらで更新いたします。
※状況により、会期・開館時間が予告なく変更となる場合がございますのでご了承下さい。