ARTIST INTERVIEW

大河紀独占インタビュー

「100%やっても理想に届かない。だから楽しい」

大河紀 個展「食卓」

<2025年10月25日(土)〜11月16日(日)>

グラフィティ感覚が浮世絵にオーバーラップする。江戸の絵画のエッセンスを感じさせながら独自のスタイルで作品を発表する大河紀。今、アーティストとして「自分を一度壊す」といい、新たな手法に取り組む彼女に話を聞いた。

ーーこれまで死生観をテーマにして作品を発表されてきました。今回、FAMILYというキーワードについて教えてください。

今年の春の個展で出てきたテーマです。私の中に残っている本当に大切なものは社会の枠組の外にあるものからもたくさん影響を受けています。輪郭も定まらずに瞬間瞬間に出来上がっていく自分を形作るあらゆるものをファミリーと呼んでもいいんじゃないかと考えるようになりました。その時に出来たのが《FAMILY》という作品。いわゆる家族とは別の意味合いで使っていて、さらに深めていきたいと思いました。

ーー自分と異なる存在との出会いによって自己が形成されていく。

私は「どうせ生きるなら楽しく生きていく」という浮世絵の快楽主義の概念を取り入れて作品に落とし込んでいます。それをどうやって実現するのかと考えた時に「異物」との出会いがあると思ったわけです。

自分とは異なるものは怖い。でも、そう思うのは知らないからなんですよね。宗教、文化など自分にはない価値観を拒絶するのではなく、口にして噛み砕いて飲み込む。世界を味わうという意味を込めて展覧会のタイトルは「食卓」としました。

だからといって私自身もそんな風に達観しているわけでは全然なく、苦手なままで受け入れられず怖いままというものはあります。ただ、「嫌だな、怖いな」と思っているものを受け入れることに一歩踏み出せる勇気が持てたらいいなという願望、自分を鼓舞するために描いてます。

ーー異形なるものや異世界は江戸以降の絵画で多く題材にとられています。関心があったのですか?

美術に囲まれた環境で育ったわけでもないので美術そのものというより両親がいろんな宗教に興味を持っていたことが影響しているかもしれません。特別信仰していたというのでもなく好きな宗教がコロコロ変わる、完全に多神教の親でした(笑)。

子どもの頃は親に連れられて教会に通っていたこともありますし、神社仏閣を見て回ったり、親が好きな宗教の建築物を巡った記憶はすごくあります。宗教が生活に根付いているバリ島にハマっていたこともあったり、神様も考え方もいろいろあって面白いなぁと思えたのはよかったのかもしれません。

ーーグラフィカルな作風からアブストラクト・ペインティング的作品へと変化をしてますね。

これまではラフというか下絵をしっかり作って描き起こしていたのですが、異物との出会いを表現するには描く過程で突発的に生まれてくる色や形に対して反応し、画面の中に現れてくる生命感を見つけ出すというアプローチに取り組んでいます。これも春の展覧会からです。

もともと大学ではグラフィックデザインを学び、デザイン畑を歩いてきているのでグラフィカルな作風にはなっていて、もっと広がりのある絵を描きたいという意識が出てきて、一回自分を壊してみようと思いました。

ーー具体的なモチーフもありつつ、形が定まらない要素が絵の中で共存してます。

(画家として)活動を始めた当初は、人間のようなおばけのようなどちらとも言えない存在、夢か現実かよくわからない世界を描きたいと思っていたんです。浮世絵の概念を取り入れることは最初から考えていたわけではなく、作品を観た人から浮世絵のようだと言われることが多く、そこから自分なりに美術館に通ったり文献を漁ったりして学んでいくうちに自分のやろうとしていることとの親和性に気づいて、快楽主義の概念を現代の感覚で表現することを考えるようになりました。

絵を描くことは線を見つけていく作業なんだと思っています。背景から描くこともあるし、見えないものを見ようとする工程がどんどん混沌としていって、偶発的な形から生き物の存在が見つかるような感覚があります。

ーー「見えないものを見ようとする」とは日本的な美意識ですね。どのように表現しようとしてますか。

私は浮世絵や琳派の世界観を忠実に再現したいわけじゃなく、琳派の「描かない部分に気配を宿らせる」といった概念に興味があるんです。琳派では地面に金箔を貼りましたが、私は金を貼らずに光の存在を感じさせることをやってみたいと考え、絵具で金がもつ光を表現しています。

浮世絵にしても主題と違う風景が描かれていたり、タイトルが入ったりと一枚の絵の中で時間軸の違うものが描かれています。窓のようなものが描かれて空間が抜けていて、パラレルワールドに入り込んでいくみたいなところが面白い。そういう混沌とした世界観が生と死の表裏一体感にも通じていて、生きているリアルな感覚のように思える。

私の作品でも一枚の絵の中に昼夜の違う時間軸を共存させ、天と地が横に入れ替わったり光の向きが逆だったり混沌とした現象をグラフィティ的な感覚で表現しています。

ーー新しい画風へのチャレンジは楽しいですか?

そもそも夜型で深夜の2、3時くらいまで作業することが多いんですけど、《FAMILY》シリーズに取り組むようになってからはなるべく明るい時間帯にやるようにはなりました。ポジティブな気持ちでいられて、失敗してもやり直せるって思える時間帯ですね(笑)。午前中にはアトリエに来て、午後3時くらいまでに核となる部分を描くようにしてます。

社会人一年目の時期に母を病気で亡くし、大体みんな80歳くらいまでは生きるんだろうと思って生きていて、人っていつ終わるかわからないということを突きつけられました。その時に自分の中で湧き起こった感情を何かしらの方法で昇華しなければいけないというのが絵を描く原点であり、これからも私の中にあり続けるものです。

絵がもつアウラ、その一回限りにしか表れない存在感のようなものを追求したいと思って描法も試行錯誤しています。アドレナリンが出てる時は快感ですが、基本はしんどい。100%全力でぶつかっても理想に届いてない。だから悔しいし「もっとやってやる」って思う。ただ、それも含めて好きなんです。ハッピーに描くだけじゃなく、自分と殴り合うように常に格闘してます。

描くことは葛藤であると明かす大河紀。快適なばかりではないところに生きる実感を見出しているからこそ画面にエネルギーが表れる。毒を喰らわば生きる旨味は深く。個展「食卓」はYUGEN Galleryで2025年10月25日(土)〜11月16日(日)の期間に開催。その後、11月29日(土)からYUGEN Gallery FUKUOKAへ巡回します。

ABOUT ARTIST

Taiga period
Taiga period
Nori Okawa
Born in Okayama Prefecture in 1991. Graduated from Tama Art University. While actively presenting his work both in Japan and overseas, he has also collaborated with many advertising and apparel companies. He has received numerous awards, including the HB File Special Award, the 22nd Graphic 1_WALL Encouragement Award, and the runner-up prize at Independent Tokyo 2025. His major artworks include Miu Miu, HERMES, and TENGA.

ABOUT EXHIBITION

Exhibition

大河紀 個展「食卓」【東京】

Venue

YUGEN Gallery
KD Minami Aoyama Building 4F, 3-1-31 Minamiaoyama, Minato-ku, Tokyo

Dates

2025年10月25日(土)〜11月16日(日)

Opening Hours

Weekdays: 13:00-19:00
Weekends and holidays: 13:00-20:00
*Ends at 17:00 on the final day only

Closed Days

None

Admission Fee

free

Notes

※在廊日やレセプションについて、最新情報は随時こちらで更新いたします。
※状況により、会期・開館時間が予告なく変更となる場合がございますのでご了承下さい。