ARTIST INTERVIEW

八木秀人の独占インタビュー

「女性たちが幸せに生活できたら、世界は平和になる」

八木秀人 個展「A life in utopia」

<2025年8月29日(金)〜9月15日(月・祝)>

広告の世界で活躍する八木秀人がアーティストとして「本当に表現したい」ことにとことん向き合い、臨む展覧会。「一人で迷路をずっとさまよっている」としながらも、新しい表現と理想の作品への手応えがあるという。本人に話を聞いた。

ーー広告の一線で活躍されてきました。アートをやるきっかけは?

学生時代の恩師に誘われ、2017年ニューヨークのアートフェア(※1)に行った時です。正直アートが売れるものだと思っていなかったのですが、尾崎悟さんの作品が目の前で売れていくのを見て、アートがダイレクトに人に届くんだと知り衝撃でした。

ビジネスにアートを取り込んでいくことはずっと考えていて、直前に私も大規模な展覧会(※2)をやってはいたんです。広告とアートの融合といったコンセプトでしたが、ニューヨークのアートフェアを経験して、広告的なアプローチではない、純粋なアートをやらなければいけないと思いました。

ーー広告とアートの違い。

広告の仕事は、商品やブランド価値といったいわば人様のアイディアを世の中に広めるもの。そこに向けて調査や戦略を積み重ねていきますが、アートは真逆。そうしたものをいかに削ぎ落として自分をさらけ出すか。毎日生活していて「もっとこうなったらいいな」「こんなことは嫌だな」と自分自身の素直な感覚からのものです。

ーー言葉をモチーフにする作風は、どのようにして思いついたのですか?

もともとデザインをやっていてタイポグラフィを作っていたこともあり、書体によって文字の形、意味が違って見えるグラフィックの感覚は面白いと思いました。

ただ言葉の壁はあって、漢字をモチーフにした作品では多くの海外の人が読めなかったり、どうしてもハードルが出てくる。それでいてメッセージがダイレクトに伝わるので、絵のように観る人の想像に委ねる部分も少なく、余白がないともいえます。

文字量を多くして複雑な構成にするとか意味をぼかすような言葉を選んだり…でも、伝えたいことがわからなくなってしまうのは本末転倒なので今でも試行錯誤してます。

ーー今回、初めてモチーフを描いています。

広告は絵だけではなく、コピーが必ず入る。コピーとビジュアルがセットになって初めて成立するのが広告の面白いところ。ふたつの要素の掛け合わせでメッセージがより伝わると思っています。

メッセージそのものを作品としてきましたが、風景や肖像画といったモチーフとメッセージを描く展開はずっと考えていました。だから、今回の作品はずっと温めてきたアイディアへのチャレンジです。

最初の頃は感覚だけで突っ走って、とにかく数を出すことを目指していたところがあります。そのうちいろんな評価も見聞きし、自分の中で良いもの悪いものが見えてきた。(アート作品を手がけるようになって)7、8年になりますが、まだ狭い枠の中で作っているなとも思っていて、「自分が本当に作りたいものは何なのか」と掘り下げていったのが今回の作品。立体表現は変えずに新しい領域が見えてくる楽しみがあります。

ーーモチーフは女性です。どんな意図がありますか?

単純に、いつかはやりたいと思っていたことのひとつが女性を描くことでした。今回の女性像は妻をモデルにしています。毎日楽しそうにしている姿を見て「女性たちが幸せに生活できたら、世界は平和になるんじゃないか」と思いつきテーマにしました。

妻をモデルにはしていますが似せてはないですし、特定の誰かを描いているわけでもないです。言葉も妻とのコミュニケーションからこういうメッセージにしようと決めたのでも、彼女が言ったことでもない。普段話していることから「女性にとって、こういうことが幸せなのかな」「こうなったら世の中はよくなるだろうな」とあくまで僕が感じたこと、考えたことを表現しています。

ーー細かい作業の積み重ねであることが伺えます。

使う資材もやり方も細かいので、作業途中でパーツがなくなっちゃう。それで、もう一回同じパーツを切り始めるなんてことの連続です。下絵は作ってますけど、途中でどんどん変えていくので新たに材料を買いに行ったり、シルク(スクリーン)もうまく刷れなかったりと壁にぶつかることはしょっちゅうです。

女性を描くのにリアルさの塩梅も難しかったですね。身につけているファッションも妻に衣装をいろいろ変えてもらって何度も撮影して、色柄やデザインも今っぽさを出すことにこだわったのでリテイクは重ねていて、絵を起こすのに結構時間がかかりました。

アルバイトの人にも手伝ってもらっていますが、考えていることはすべて僕の中にあるし、作業も頼むことができないものが多いので、一人で迷路をさまよっている感じです。仕事の時間以外は全てここに注いできて大変なんですけど、作品制作は楽しいしかない。生き甲斐になってます。

ーーこれまでの作風と違い、色数もだいぶ多いです。

やっぱり、ポップでカラフルなものに人はポジティブで嬉しい気持になります。これまでは白一色だったりトーンを抑えたものが多かったのですが、自分の思考が楽しく前向きであれば人生は最高になること、僕のテーマである「思考は現実化する」を表現するのに作品はカラフルになっていきました。色の組み合わせもだいぶ難しいのですが、縁取りやマチエールによって振り切った色遣いをして結構チャレンジしてます。

ーー理想に近づくために描く理想。批評性を重視するアートにおいて新鮮に思えます。

先ほどずっと女性を描きたかったと言いましたが、学生時代から結構女性は描いてはいたんです。それは理想とする女性を描いていれば、いつかは出会えるって思っていたから。その頃描いていた絵を見た友達に「奥さんにそっくり」と言われ、「本当に出会えたんだな」って気づきました。

絵でも言葉でも自分の思い描いている理想を形にするとポジティブになれる。そして、それを観た人たちも前向きになっていく。そんな風に理想に近づくことが出来たらいいなって思います。

好きな絵を描くこと、自分の心が喜ぶ作品を部屋に飾ること。それだけで世界には希望があると思える。アートを実践することの可能性も感じさせる八木秀人の個展「A life in utopia」は2025年8月29日(金)〜9月15日(月)の期間に開催。

ABOUT ARTIST

Hideto Yagi
Hideto Yagi
Hideto Yagi
Born in Tokorozawa, Saitama in 1975. Graduated from the Department of Graphic Design at Tama Art University in 2001. Worked as an art director and graphic designer at advertising agency McCann Erickson and Dentsu, working for Microsoft, Johnson & Johnson, Uniqlo, Honda, and others. Awards received for his designs include the JAGDA New Designer Award, the NY ADC Award, the Gold and Silver Awards at the Cannes Lions, the Gold Award at the London International Advertising Festival, and the ADFEST Grand Prix. As an artist, he exhibited at the CUTTER ART OF OLFA exhibition in 2011, a campaign for stationery manufacturer STAEDTLER in 2012, and ART BY THE HAND EXHIBITION (Spiral Gallery, Tokyo) in 2017. In 2018, he founded the creative company Hand Inc.

ABOUT EXHIBITION

Exhibition

八木秀人 個展「A life in utopia」【東京】

Venue

YUGEN Gallery
KD Minami Aoyama Building 4F, 3-1-31 Minamiaoyama, Minato-ku, Tokyo

Dates

2025年8月29日(金)〜9月15日(月・祝)

Opening Hours

Weekdays: 13:00-19:00
Weekends and holidays: 13:00-20:00
*Ends at 17:00 on the final day only

Closed Days

None

Reception Dates

8月29日(金)17:30〜

Date of presence

8月29日(金)、30日(土)、31日(日)

9月5日(金)、6日(土)、7日(日)、12日(金)、13日(土)、14日(日)、15日(月・祝)

Admission Fee

free

Notes

※在廊日やレセプションについて、最新情報は随時こちらで更新いたします。
※状況により、会期・開館時間が予告なく変更となる場合がございますのでご了承下さい。