ARTIST INTERVIEW

深呼吸の先に見つけた、大切なものとの共鳴。杉山歩独占インタビュー

一瞬の感情や記憶を描き留める

杉山歩の個展「Breatheborn」

自然から受け取るメッセージを絵画へと昇華する杉山歩。本展では、自身の「はじまりの場所」である故郷の宮崎からインスピレーションを得た新作を発表しています。心の中にある本当に大切なものと改めて向き合った彼女に話を聞いた。

ーー今年、アーティスト名を本名にされました。

絵を描くことは普段の生活とは違う感覚があり、以前は気持ちをうまく切り替えることができなかったんです。周りの人たちからのアドバイスもあり、アーティスト名を持つことにしました。大和言葉の「流転」になぞらえ「ruteN」と名乗ることで、生活と制作の切り替えができるようになりました。

今は絵を描くことが完全に私の日常となって、名前を分けることが逆に不自然に思えるようになり本名に戻しました。昨年末に結婚して姓が変わったり、いろいろなことが統合されてきて、自分らしくありのままでやっていける感覚が強くなってきています。今回の個展のテーマにつながっています。

ーー転換期ともいえます。作品に対して変化は感じますか。

今年2月のグループ展(※)で、京都のお寺を訪れた時に感じたものを作品にしました。私は季節のうつろいや植物から受け取るメッセージを日記を書くように絵を描いていますが、土地や場所が発する気のようなもの、その場所の記憶を残したいと思うようになりました。そこから今回、自分の「はじまりの場所」に向き合うことにしました。

あとは、アーティストとして活動を始めて5年、一気に走り抜けてきて今は深呼吸をするタイミングなのかなと思っています。深呼吸した先に自分が大切にしているものと自然との共鳴がある。そんな意識がこれまで以上に湧いてきました。

ーー深呼吸する場所は、故郷の宮崎。

最近、頻繁に帰省することがあり、生まれ育った場所がこれまでと違って見えるようになったんです。昨年は宮崎市の市制100周年記念イベントで生け花のライブパフォーマンスや作品の展示をさせて頂く機会があり、その準備をするなかで改めて故郷のことを考えました。

地元にいた頃は、そこにある環境を当たり前だと思っていて、ありがたみのようなものをあまり感じたことはなかったんです。離れて10年以上経って改めて故郷と向き合うと懐かしい景色やいろんな記憶が蘇りつつ、今まで気づかなかった美しさに気づき「ここに生まれてよかった」と思えました。

宮崎はブーゲンビリアやストレリチア、フェニックスにパームツリーと力強く太陽に向かって伸びていく植物が多いので、前回の展覧会が陰に向かっていたのに対して、今回は陽に向かうイメージ。地元の海がすごく好きなので、柔らかく包まれるような優しい揺らぎを表現できたらいいなと思います。

ーー日常の美しい瞬間を捉えて描くスタイルですが、今回は記憶を辿る作業なのですか。

記憶を辿るのではなく、未来に向かう過程で自分がずっと大切にしてきたものと向き合う感覚です。自分が大切にしている場所の美しさや息遣いと自分自身が重なっていくと、本当に大切なものが見えてくる。そうして新しい自分が生まれる感覚があります。

記憶ってやっぱり曖昧ですよね。過去の記憶や行った先々で感じたものは時間が経つと変わっていくし、おぼろげになっていく。特に故郷の思い出は美化しがちですけど、思い返せば、その瞬間瞬間は苦しくて辛いことも沢山ある。でも、あらゆる経験をしてこそ見える景色があり、気づく美しさがある。月の満ち欠けや陰陽のバランスと同じで、作品のトーンも深いものと明るく軽やかなものの両方が生まれます。

記憶の奥にある景色すべてが今の感覚につながっている。この一瞬の感覚や感情をできる限り鮮明に描き残したい。それによって見つかる光、美しさを作品を見に来てくださる方が感じて、心の奥底に眠る大切なことが目覚めるきっかけになったら嬉しいです。

ふとした瞬間に経験し感じたものが心のつぼみとなる。杉山は、そのつぼみを見守るように絵を描いています。大切な場所で深く呼吸をして見つける、心のつぼみ。いつ咲くかはわからないけれど、それは確かな希望を宿しています。杉山歩の個展「Breatheborn」は2025年6月28日(土)〜7月10日(月)の期間に開催。

※「WAVE2025」東京・LURF GALLERYで2025年1月24日(金)~2月11日(火・祝)、2025年2月15日(土)〜3月3日(月)の前後期に分けて開催。杉山は「WAVE YELLOW」と題した後期に展示。

ABOUT ARTIST

Ayumu Sugiyama
Ayumu Sugiyama
Ayumi Sugiyama
Artist and flower artist from Miyazaki Prefecture. She started working as a model in Tokyo in 2014. In 2018, she studied under the fourth head of the Ichiyo style of Ikebana, Takahiro Kasuya. In 2023, she obtained a teaching certificate for the same school (pen name: Kashiwaba). She is currently a full member of the Japan Ikebana Art Association, a public interest incorporated foundation, and a member of the Ikebana Association. She began her career as an artist in 2020.

ABOUT EXHIBITION

Exhibition

杉山歩 個展「Breatheborn」【福岡】

Venue

YUGEN Gallery FUKUOKA
Fukuoka City, Fukuoka Prefecture, Chuo Ward, Daimyo 2-1-4 Stage 1 Nishidori 4F

Dates

2025年6月28日(土)〜7月10日(木)

Opening Hours

11:00 AM – 7:00 PM
Closes at 5:00 PM on the final day only

Closed Days

Every Tuesday

Reception Dates

6月28日(土)16:00よりいけばなライブパフォーマンス

Date of presence

2025年6月28日(土)〜7月6日(日)

※変更となる場合がございます。最新情報は随時こちらで更新いたします。

Admission Fee

free

Notes

※在廊日やレセプションについて、最新情報は随時こちらで更新いたします。
※状況により、会期・開館時間が予告なく変更となる場合がございますのでご了承下さい。