生成流転する自然のメッセージ
油彩絵具を幾層にも塗り重ね、キャンバス全面に載せたあとで絵具の一部を削り取る。そこから現れる予期せぬ色に触発され生まれる有機的な線。植物や自然の魂と深く繋がり、瞬間に感じたメッセージを日記のように描き残すアーティスト、華道家のruteN(ルテン)。
大和言葉「流転」から取られたアーティスト名が示すように植物や季節、自然といった事物が絶えず変化し、うつろいゆく生々流転の世界観を画面に展開しています。
本展「impermanence」では、憂いがありながらもエネルギーを巡らせていく秋から冬にかけての季節にruteNが感じ取る植物の内なるエネルギー、生命の美しさを表現した約20点の油彩画作品を公開。教授免状をもつ華道(一葉式いけ花)作品と融合したインスタレーション展示となります。
華道と絵画の融合。花を生けるように描く
ruteNは、2020年より「絵描き」として活動を開始し、早々にアートコンペティションで頭角を現します。2018年から一葉式いけ花に学び、2023年教授免状を取得。いけばなの感覚は絵を描くことと通じるといい、「花を生けるように描く」スタイルを特徴としています。
「一葉式いけ花での花を生ける感覚や向き合い方、空間や時間などのバランスの取り方は、私が子供の頃から自然から受け取ってきたメッセージやエネルギーの信号のようなものの解像度をさらに高めてくれたと感じています。筆の走らせ方や筆圧の強弱は花を生ける感覚と重なります」
作品のモチーフの多くを植物にとるruteNは、幼少の頃から故郷の宮崎で植物と触れ合い言葉を介さないコミュニケーションをとってきたと話します。「目に見えるものと見えない存在」を感受し手の動くままに描く。絵を描いている時は森の奥深くに入り込んでいるかの没入感があるといい、自分の思っていなかった色と出会う。その色そのものを受け入れ描いていくことは植物と対話している感覚だといいます。ruteNにとって絵を描くことは、自然と自身の循環を満たすものといえるでしょう。
瞬間にしかない美しさ。自然に在り続けるもの
「毎日同じように見える景色も少しずつ変化している。慌ただしく過ぎていく現代社会で、今この瞬間にしか出会えない美しいうつろいと向き合うことが今の私たちには必要」
そのように自然界にあって瞬間に現前する景色を捉えるruteNに一貫するテーマは「うつろい」や「無常性」。そして、その奥にあるものを見つめ続けます。
「塗り重ねた絵具を削り取って思いもよらなかった色が現れるのは、いつかどこかで嗅いだ金木犀の香りだったり子供の頃の記憶がパッと蘇ってくる感覚そのものでした。そこから、さまざまに塗り重ねられた絵具を削りとることは、多様な記憶や経験で構成される自分の奥底に在る何かを映し出す感覚でもあります。それは、目の前にある植物が予期せぬ表情を見せ対話してくれることに感じる喜びとも重なります」
原色遣いで爛漫とした作風から、近年は黒群緑のような暗い色調の作品も生まれているruteN。それらの作品に向き合う時は海に深く沈み込み、深海に浮遊する細胞群とコミュニケーションを取っている感覚があるといいます。
光に照らされる花の色、海に立つ波頭。どれも色や形をとどめることはなく、一瞬の様相でありながら花そのものであり、海そのものである。
植物も動物も滅びゆくもの。ruteNは、その向こう側に滅びずに在り続ける「或るもの」を捉えようとします。画面の奥から現れる色は自我や真理が存在することを、そして自然との調和に無常なる世界の美しさがあることを示唆しています。