ARTIST INTERVIEW

写真家・堀清英(ほり きよひで)の独占インタビュー。
「予感は、よどみなく流れ出る」
堀清英 個展「Free again」<2024年5月25(土)〜6月3日(月)>

写真家・堀清英による展覧会「Free again」では、銀塩プリントをはじめとする写真作品以外に長らく使っていなかった手帳や電気製品といった日用品を分解し、写真と組み合わせた立体作品も展示。これらは「気づいたら日がな一日中作っている」というほど堀が夢中になって制作したもの。何にも囚われず自由に取り組む現在の創作について聞いた。

ーー 「写真はすべてセルフポートレート」とおっしゃっていますが、それはユサフ・カーシュから学んだことなのですか?

全く違います。僕自身カーシュに撮影をしてもらったこともありますが、撮影中にこっぴどく叱られる。そうかと思えば、僕の個性をすごく褒めてハグしてきたり被写体にとことん入り込んでくる。その熱量をジョン・F・ケネディやヘレン・ケラー、そして無名の人たちまで全員に注いでいると知ったら到底僕には出来ないと思いました。

カーシュのような写真家になりたい、と志も高かったし技術を身につけようと努力はしたけれども、あのレベルは無理かなとも感じていました。その頃、マンハッタン郊外の友人の別荘に毎週のように行くようになり、その途中で出会ったロケ地で啓示のように明確なイメージがやってきた。

イギリスの写真家のセシル・ビートンに、モデルを操り人形に見立てた作品があります。僕はその作品のオリジナルプリントを持っていたのですが、手に入れる前から同じアイディアがあった。人間を操り人形に、風景を舞台に見立てて撮影したら面白いと考えていて、自分の見てきたものと考えていたことがつながったのです。

最初にストーリーを作るのではなく、撮影ありきで動いて自分の気持ちと交感する場所に出会うと、そこにいる人の姿が浮かんでくる。それを撮ればいいんだとわかり、カーシュの作風とお別れすることができた。

だから、僕のポートレートは被写体の内面に迫るのではなく、僕自身が「こう見たい」という気持ち、感情の投影であるといえます。

堀・インタビュー中の様子
堀・インタビュー中の様子

ーー 今回の展示にあたって「アメリカと日本での写真のお作法と別れる時がきた」と話されたことが印象的です。

ある人の言葉を借りると日本には武道や華道のような“写真道”があり「こうあるべき」という縛りのようなものがあると感じています。また、私が写真を学んだ1990年代のアメリカではアルフレッド・スティーグリッツの《イクィヴァレント》にはじまる近代写真芸術論や100年以上アーカイブを保存するための技術論といったアカデミックな側面が強く、写真が特権階級の聖域のようにあるとも思った。

ーー そうした写真にまつわる固定観念のようなものから自由でありたい、と。

写真論のようなことで言うと作品は一枚で完結すべき、との考え方があります。そこに疑いはないのだけど、僕はそれとは正反対の考えもあっていいのだと思うようになったのです。小学生の頃から映画監督になりたいって思っていたことが関係しているかもしれないけれど、時間の流れや全くの筋違い、プロセスが違う写真を複数組み合わせることで相乗効果が生まれる写真もあると思っていて、最近はそんなことばかりやっていますね。

ーー 「フリーアゲイン」とは、ご自身の奥にしまい込んでいたものを引き出すことであると。

作品を人に見せるのは、ずっと怖かった。今でも怖いですよ。小学校の時、図画工作で作ったものを先生に酷評されたことがあって、それがトラウマになっているのか自分が作るものにはずっと自信が持てなかった。そして、写真がやりたくてニューヨークに行って、する必要のない苦労をして、写真家として仕事はしてきてもラブ&ピースどころかラブ&ヘイト。愛と憎しみのなんだかわからないところをずっと彷徨っている。

堀のアトリエにて
堀のアトリエにて

ーー 写真家として第一線で活躍されてきた堀さんが、そのような葛藤を抱えていたとは意外です。今回の展示の前に開催されていた新宿のゴールデン街での展覧会では失敗作にフォーカスしたそうですね。

30年前くらいに酷評されたものを「良いね」って言ってくれる人が今沢山いて、写真のお作法からはこぼれ落ちたものとか、批判されることが怖くて自分では見なかったことにしていたもの、カッコつけて落としたことさえ気づかなかったものを掬い上げてみようと思いました。

アートでもなんでも部屋に何かを飾る時って自分の気持ちとイコールのものを飾ると思うんです。もちろん、これからも写真の仕事を続けていくのですが、自分の気持ちと交感できることをやらないと、いよいよ折り合いがつかなくなってきたと感じています。

偶然出会って「コレだ!」と感じた風景やモノに反応して作品を作り、そして自分で作った作品に反応して作る。この連続です。

堀のアトリエにて
堀のアトリエにて

ーー 他にインスピレーションを得るのは、どんな時なのでしょうか?

20年以上毎朝書いている日記があります。寝起きに頭にあることを書き始めるのですが、日本語だったものが英語になったり解読不能な文字になっていく。自分の中に隠れていたアイディアが流れ出て、トースターみたいにポンって飛び出してくるような。そこから思いもよらない方向に連れて行かれる一瞬がある。それは予感なんじゃないかな。誰でもハッとしたりする瞬間があると思いますが、そういった予感を動かさなければいけないと思っています。

「ジャズ・ミュージシャンがイメージを演奏するように言葉は波立つ感情をよどみなく流れでるもの」としたのは、ビート・カルチャーを代表する小説家で詩人のジャック・ケルアック。堀清英の作品もまた、イメージが溢れるまま形式に縛られず即興的発想で生み出されています。そこに潜む予感とは? 展覧会「Free again」は5月25(土)〜6月3日(月)まで。

ABOUT ARTIST

堀 清英
堀 清英
Kiyohide Hori
写真家。愛知県出身。 明治大学在学中にデザイン事務所でのアルバイトをした頃より写真に興味を持つ。1991年からニューヨークのICP(国際写真センター)で学び、作品制作を始める。1997年に帰国後はカルチャー誌、ファッション誌、アーティスト撮影、広告で活躍。大学非常勤講師、講演会の経験もあり、現在は自身の作品制作を基盤に人物写真を中心に活動している。

ABOUT EXHIBITION

展覧会

堀清英 個展「Free again」

会場

YUGEN Gallery
東京都港区南青山3-1-31  KD南青山ビル4F

会期

2024.5.25 (Sat) - 2024.6.3 (Mon)

開館時間

平日:13:00〜19:00
土日祝:13:00〜20:00
※最終日のみ17:00終了

休館日

なし

在廊日

終日:5月25日(土)、26日(日)
16〜19時:5月27日(月)、31日(金)
16〜20時:6月1日(土)、2日(日)
14〜17時:6月3日(月)

入場料

無料

注意事項

※状況により、会期・開館時間が予告なく変更となる場合がございますのでご了承下さい。