ARTIST INTERVIEW

アーティスト、西元祐貴の独占インタビュー

「線を極める、墨と向き合う時間」

西元祐貴 個展「純粋なる曲線:墨で紡ぐ生命の美」

<2025年2月13日(木)〜3月6日(木)>

展覧会「純粋なる曲線:墨で紡ぐ生命の美」では、ギャラリーの女性スタッフらとの対話から発想した女性画をはじめとする新作を発表。本展に向けての制作は「今後の創作がガラッと変わるかもしれない」という。制作を終えたばかりの西元祐貴に聞いた。

ーー「曲線」がテーマの展覧会です。

展示をどうしようかってギャラリーと話していた時、女性スタッフから僕の描く女性が好きだと言ってもらったんです。その中で「純粋な曲線」というワードも出てきて、自分の内にあるものを引き出してもらった感覚があります。

女性を描くのは好きで今も描き続けていますが、「これだ!」と描き切った感覚はまだない。墨絵は「いかに描かないか」が究極。線を引かないことが美しいことだと思っていて、その行き着くところが女性画なんじゃないか。人間の身体に直線は存在しないですし、曲線を追求することで龍や男性の描き方も変わってくる。自分の創作の究極になる予感があります。

ーー改めて女性画に向き合ってみての感想は?

龍や男性も余白となる「描かない」部分が肌を描くことになりますが、女性はより繊細になり緊張感がありましたね。後ろ姿を描いたのは特定のイメージをつけず、見る人それぞれの女性像で見て欲しいと思ったからです。男性の肉体とは違うフワっとした雰囲気、女性の曲線美を表現したいとずっと思っていて、そんな絵になったと思います。

儚さとか墨絵の女性画で大事にしているところは守りつつ、ファッションや髪型などの表面的な部分は今の時代感、ポップな空気感を意識しました。女性スタッフたちとの会話はとてもヒントになっています。

ーーもうひとつのハイライト作品《相応する黒》について

若い頃に描けていた線が今は描けなくなっていると感じることがあります。昔に帰るというのではなく、今の感覚で取り組んだら、どんな線になるのか。黒い和紙に太い筆で大きなストローク。思考を重ねて制作した女性画とは真逆のアプローチ。感覚だけで描いた作品です。

僕が使ってる墨は粘りが強くアクリル(絵具)のようで、それより黒く濃い紙を探して越前和紙職人の長田さんに相談したところ、特別に作って(漉いて)くれました。これまでにも墨を混ぜて漉いた和紙は使っていますが、今回の紙は長田さん(越前和紙職人)にとってもチャレンジだったと思います。

描き上げて墨が乾くと、ゴールドのような色が浮き上がってきて本当に面白い発見がありました。今回使った和紙と墨の化学反応によるものなのか原因はこれから検証していきますが、うまくコントロールできれば今後の作品制作に大きく影響すると思っています。

ーー具象と抽象、そして白と黒の支持体。描く上で感覚は違いますね。

まったく違います。女性画を描くには持久力が試され、黒和紙での抽象表現には瞬発力が求められるという違いもありますし、白紙では描かない部分を意識して線を引きますが、黒い紙には(墨を)乗せる感覚が強い。黒の上に黒を重ねることで新しい表現が生まれる。特に黒和紙に墨を重ねる表現には新しい可能性を感じています。

本来、墨で黒和紙に描くものはない。黒に黒を重ねるとなると考えていてもしょうがない。経験を積んで技術的に上手くなると線が作為的になることもあるし、迷いも生じます。身につけたものがあったら、何かを捨てないといけない。日常生活でも作品でも無心で向かいあうことが難しくなっていると感じていたので、黒和紙に墨で描くことは無心になれたのがよかった。

作品を作り続けていると自分でも気づかないうちに「何か」に寄せていってる。そうしたものは美しくないから、もっと抗って、もっと不恰好なものを作っていきたい。無心になって線を引きたい。

ーー以前、線表現を追求するために墨絵の道を選んだと伺いました。今回、改めて曲線表現に取り組んで感じたことは?

よくここまで描いてきたなっていう自分の成長を確信しつつ、昔の作品を振り返ってみて「どうして、ここに線を引いてるのだろう?」と今とは違う感覚に気づきます。改めて線一本を描くことの奥深さを感じています。

描き終わって「これで満足」と思っても、寝て起きると「やっぱり、もう一回描いてみよう」の繰り返し。結局、自分は線を描くことがいちばん楽しい。ゴールがあるのかもわからないけど、線をずっと引いて変化し続けるしかない。

数年前からキックボクシングを始めてから集中力の質が変わった。力を込めるところ、抜くところ。呼吸やリズムに意識的になり、それは作品にも表れています。時代はデジタル全盛ですが、和紙と筆というアナログの表現を大切にしたい。陶墨画に取り組むのも黒の和紙を使うのも、それが理由です。

今回発見した新しい感覚をこれから作品にどう織り込んでいくか。今まで以上に描き続けられると思えたし、どんどん線を引いて突き詰めていきたい。

長年描きたいと思っていたものの「タイミングがなかった」女性画。キャリアを重ねて、スタイルを確立した自分自身に抗うように向き合った抽象表現。墨と筆に西元祐貴のマインドが乗り、画面に隆々たる生命のエネルギーとなって現れます。個展「純粋なる曲線:墨で紡ぐ生命の美」は2025年2月13日(木)〜3月6日(木)の期間に開催。

ABOUT ARTIST

西元祐貴
西元祐貴
Yuki Nishimoto
墨絵アーティスト。1988年生まれ、鹿児島県出身。ジェニエット合同会社所属。大胆かつ繊細なタッチで「躍動感」と「力強さ」を追求した作品を展開する。 2012年、アメリカの「EMBRACING OUR DIFFERENCES」でワールドベスト作品賞を受賞。以降、香港、中国などでもライブペイントを行い、国内外で活躍。福岡空港壁画制作や広告賞「Clio Entertainment」三部門受賞、コラボTシャツデザイン、防衛白書表紙、NHK紅白歌合戦背景映像など幅広い分野で活動。現在は福岡と福井を拠点に制作活動を行っている。

ABOUT EXHIBITION

展覧会

西元祐貴 個展「純粋なる曲線:墨で紡ぐ生命の美」【福岡】

会場

YUGEN Gallery FUKUOKA
福岡市中央区大名2-1-4 ステージ1西通り4F

会期

2025年2月13日(木)〜3月6日(木)

開館時間

11時〜19時
※最終日のみ17時まで

休館日

毎週火曜日

レセプション日程

レセプション:2月13日(木)15時〜19時

クロージングパーティー:3月1日(土)17時半〜19時

在廊日

2月13日(木)
3月1日(土)・2日(日)・3日(月)14時〜16時

入場料

無料

注意事項

※状況により、会期・開館時間が予告なく変更となる場合がございますのでご了承下さい。

※最新の情報はギャラリーのInstgramをご覧ください。