ARTIST INTERVIEW

DAILY FABLES独占インタビュー

「恐怖とは仲良く、共に生活する」

グループ展「DAILY FABLES」

<2025年10月25日(土)〜11月13日(木)>

九州出身の4名の作家たちは、いずれもキャラクターをモチーフにした作品を発表しています。現実の世界にふと顔を出すキャラクターを通して示すのは、生きるリアリティ。参加作家のひとり、弓指貴弘にキャラクターに込める意味や制作について話を聞いた。

ーー弓指さんがキャラクターを描くきっかけについて教えてください。

物心つく前から好きなアニメや特撮のキャラクターを描いていました。シンプルにウルトラマンや仮面ライダーが好きだったんですが、主人公よりも怪獣や怪人に惹かれるところがありました。姿形はもちろんキャラクターの背景となるメッセージが毎回違って、どれも特徴があって興味がありましたね。

ほとんどの人は普段、他人や外の世界に対して見せる外面と自分だけの内面とを使い分けています。僕はその両者には開きがあると思っていて、キャラクターというものを通して「本当の自分」ってどこにあるのか?ということをテーマに作品を作っています。今回「現実と虚構の境界を探る」というお題を頂いて、自分が取り組んできたテーマとも親和性があり面白いことができるかなと思いました。

ーー鬼を描くこと。

全然意識していなかったのですが、昔から人間ではないキャラクターを描くと、だいたい角だったり頭の上に何かが生えたモチーフをよく描いていたんです。そこで日本らしいモチーフで作品に落とし込めるものは何かなと考えた時に鬼が浮かびました。《toon demon》は2024年に発表したものですが、原型となるキャラクターは2023年には出来ていました。

歴史的に見れば疫病や飢饉が蔓延した平安時代に原因がわからず目に見えない恐怖=悪を見える化したものが鬼なわけですが、僕はそれを身近な良き存在として描いています。今の時代はSNSで事実ではない情報が拡散したり、むしろ目に見える恐怖の方が広がっていると感じています。目に見える・見えないは関係なく、人間が生きている限り恐怖はなくならない。それなら悪とされる鬼も人間と同じように生活するポジティブな存在と捉え、仲良くした方がいいと思ってます。

ーー作品を描く上での工夫について教えてください。

以前は下描きはしなかったのですが、最近は構図をきっちり決めて、その通りに描くことが多いですね。色は即興的に塗ることはあるんですが、下書きからズレないように設計図通りに描きます。色遣いに関しては原色に近い色を使っていましたが、ここ数年は静かなトーンの方がしっくりくるようになり、グレー系が多くなりました。

絵自体は極力シンプルにしたいと思っています。絵具のマチエールを感じさせないフラットな状態にしたくて、やすりをかけるなど表面処理して滑らかに見えるようにしています。今回はキャラクター部分はオイルパステルで陰影をつけて立体感を出し、画面に奥行きを感じられるような新しい描法にチャレンジしています。

ーー今回、新しい描き方に取り組もうと思ったのはなぜですか?

デジタルで描くことが全然できなくて、下絵から全て手法はアナログです。フラットに仕上げているからかSNSに作品を上げるとデジタル作品だと思われることが多く、そこは差別化したいという思いがありました。

学生時代からドローイングに油絵、色鉛筆、コラージュといろんな技法で制作してきて、大きな作品を描く上で今はアクリル絵具に落ち着きましたが、新しい展開を作るのは本来の自分らしさを探るという僕のテーマの実践ともいえますし、寓話的世界と現実世界と結びつきを表現する今回の展覧会にも重ね合わせられるのかなと。

ーー制作する際のルーティンはありますか。

絵を描くスイッチは夕方から夜にかけて入っていくので、そこに向けて道具を準備し、お香を焚いて気持ちを整えていきます。音楽をガンガンかけてハイになって、というタイプではなく、気持ちを鎮めて絵に入っていく感じです。

最近は観葉植物にハマって、すごい勢いで増えてます。植物自体に興味があるのですが、鉢を選ぶのが楽しい。鉢選びは絵具や構図を考える作業と似ていて、それも面白いんですよね。ゆくゆくはアトリエを緑で埋め尽くしたい。

ーー弓指さんの作品の落ち着いたトーンと繋がりますね。今回のグループ展で期待していることは?

去年「Connection spot」に出させてもらい、ギャラリーの空間がすごくいいなという印象があります。その時は5人での展示でしたが、まだスペースに余裕があるとも思ったので、今回は作品数を増やしたり、面白い配置もできるんじゃないかと思います。

カメ子カメ男さんはお会いしたことがありますし、モノトーンの表現で相性はいいと思います。これまでのグループ展では同じようなトーンの作家さんと並ぶことが多かったのですが、あごぱんさんとヨシサコさんは色数も多く画面を目一杯使っていて全く違う作風なので、どんな空間になるのか楽しみです。

アニメ、漫画はいうに及ばず、私たちはいろいろなキャラクターと生活をともにしている。それらに惹きつけられるのは、どこか人間の欲や業を暗示しているからかもしれない。となれば、「日常に潜む寓話」は深い人間味がする。グループ展「Daily Fables」はYUGEN Gallery FUKUOKAにて、2025年10月25日(土)〜11月13日(木)の期間に開催。

ABOUT ARTIST

カメ子カメ男
カメ子カメ男
Kameko Kameo
1979年鹿児島県生まれ。宮崎県在住。 マンガ、アニメ、サブカルチャー文化に影響をうける。 灰色の世界やキャラクターに自身の主観的なものを投影し可視化しています。
あごぱん
あごぱん
Agopan
パンダ絵師あごぱん 1979年生まれ 2002年鹿児島大学教育学部学校教育教員養成課程社会科卒 パンダのキャラクターをメインに描くパンダ絵師。 描きたいものは、実はどこか愚かで憎めない、欲深い人間だったりする。しかし人間で描いてしまうとなんだかすごく生々しい。 そこで、何をやらせても怒られなさそうな「免罪符のような動物」はなんだろうと考え、白黒で究極の「かわいい」を武器にした「パンダ」をモチーフにしようと思いつく。 様々なパンダとそれを取り巻く出来事を、豊かな色彩と独特の構図で大胆に絵画で表現し、近年は「人を強烈に惹きつけ、観るものを不思議と笑顔にしてしまう」パンダを「福」と「強運」を手にしたキャラクターとしてコミカルに描き、神仏と組み合わせる事で新しい吉祥画として提案すると共に、目には見えず、非常に曖昧な概念であるが、人間の欲や業と切り離すことのできない「運」を捉える事をテーマとしている。
弓指貴弘
弓指貴弘
Takahiro Yumisashi
1993 年 福岡県生まれ 2018 年 九州産業大学 芸術研究科 修士課程修了 2018年より活動拠点を東京に移す
ヨシサコツバサ
ヨシサコツバサ
Tsubasa Yoshisako
1992年生まれ、鹿児島在住。鹿児島大学教育学部美術専修卒業。 2016年頃から本格的にイラスト制作および活動を開始、2021年よりフリーランスに。 現在、作品の展示会やイベント出展を中心に活動中。 なんでもない日常の中に潜む喜びや悲しさ、うれしさなどを表現した「日常とポップ」というテーマを掲げ、アナログ・デジタル問わず日々制作している。 その他、イベントのビジュアルやグッズイラスト、鹿児島県内の看板イラスト制作なども手掛ける。

ABOUT EXHIBITION

展覧会

グループ展「Daily Fables」【福岡】

会場

YUGEN Gallery FUKUOKA
福岡市中央区大名2-1-4 ステージ1西通り4F

会期

2025年10月25日(土)〜11月13日(木)

開館時間

11時〜19時
※最終日のみ17時まで

休館日

毎週火曜日

在廊日

未定

入場料

無料

注意事項

※在廊日について、最新情報は随時こちらで更新いたします。
※状況により、会期・開館時間が予告なく変更となる場合がございますのでご了承下さい。