ARTIST INTERVIEW

ポップな線描を特徴とした現代アーティスト鈴木潤の独占インタビュー。

「アートが“その日の天使”」

鈴木潤 個展「Precious Memories」
<2024年6月22日(土)〜7月1日(月)>

《花に囲まれて》2023
《花に囲まれて》2023
《アスファルトに咲く花》2023
《アスファルトに咲く花》2023
《HELLO #4》2024
《HELLO #4》2024

今を生きる人、そして未来に生きる人にポジティブな思いを届けたいと話すアーティスト、鈴木潤。代表作である《ドクロくん》からビデオテープをモチーフにした最新作《VHS》までの作品と制作に込める思いを聞いた。

ーー アーティストになったことに陶芸家のお父さんの影響はありましたか?

実家には窯があり、父が陶芸をしている姿はいつも日常でしたが、僕自身は将来何になりたいとかっていう夢は特になかったんですよ。絵は、あくまで趣味程度でしかなかったですし。ただ、父のバンドに混ざって一緒に音楽やったりもして、自分の好きなことを続けるところで大きく影響は受けているのかなと思います。

ーー 《ドクロくん》シリーズが代表作ですが、骸骨を描くきっかけは?

父がレコードを沢山集めていて’60年代、’70年代のロックのアルバムジャケットによく出てくるスカルを子供の頃に見てカッコいいと思い、真似して描くようになったのがきっかけです。特にグレートフル・デッドのジャケットには影響を受けました。他にもロックのポスターや好きなミュージシャンにスカルのタトゥーが入っているのを見て、カッコいいもののシンボルでしたね。

ーー 今のようなポップな骸骨だったのですか?

まるで違いますね。ずっとモノクロのボールペンで描いていて、おどろおどろしい感じで今見ると我ながらグロいな、と思います。

ーー おっとりした可愛らしい骸骨を描くようになったのは、なぜですか?

4年前くらいは絵を描きながら夜は飲食店でバイトをしていたのですが、コロナ禍の影響で店が潰れてしまいました。仕事がなくなって絵も漠然と描き続けているだけになり、当時の世の中の雰囲気もあって気持ちが落ちていき、ずっと描いていたスカルが死の象徴のように見えるようになって…その時、初めて自分の絵が嫌いになってしまいました。でも、自分が好きでずっと続けてきたものがネガティブなものになってしまうのが本当にイヤで。

アクリルのペインティングをやり出した頃でもあり、周囲の人達からも明るい色(の作品)を見たいと言われるようになっていたので何かを変えなきゃマズいと思い、カラフルな色を使った今のポップなキャラクターを描くスタイルになりました。

《アスファルトに咲く花》2023
《アスファルトに咲く花》2023

ーー 《ドクロくん》は、どのように発想したのですか?

やっぱり、スカルって死の象徴ではあると思うんですね。だけど、生と死の振り子じゃないですけど、生きている部分も出したいと思い、カラダは生身の人間、顔はガイコツとふたつが混在しているものとして描きました。

僕は、死への漠然とした不安をずっと感じてきて生きてきたのですが、ドクロくんを描くようになってから、その意識は薄れていきました。死に対して不安を抱くというのは、それだけ生きたい、生に執着してることでマイナスなことではない。そう思えるようになり、自分自身すごく楽になりました。

あとは去年あたりからドクロくんの友達であり家族として登場させたキャラクター《ゴロ太郎くん》は実家で長い間飼っていた猫が亡くなり、家族全員の気持ちが沈んでいた時に保護猫と出会ったのがきっかけ。命のバトンはつながっていくんだと感じて描くようになりました。

《花に囲まれて》2023
《花に囲まれて》2023

ーー 今回、初めて発表する作品《VHS》シリーズについて教えてください。

展覧会のタイトル「Precious Memories」とあるように記憶をテーマにしようとキュレーターの野間(博尊)さんと話していて、出てきたアイディアです。過去の記憶が現在、未来に繋がっていく。父と音楽を一緒にやったことや飼い猫と、あらゆる記憶が今の自分を形作っているわけで、そうした記憶が詰まっている、収まっているものとしてビデオテープをモチーフにしました。

‘80年代〜’90年代のVHSテープのパッケージデザイン、ビジュアルがカッコいいので、それをサンプリングしつつ絵具の色をそのまま使わず自分でアレンジした色を探し、組み合わせています。赤にしても絵具の赤を塗るのではなく、白とオレンジを混ぜたほうが自分の色になるというか、チューブから出す色だけでは自分の色にならないと思っています。

この作品では、自分が人生でつまずいた時に救ってくれた、今も励まされる言葉も重要なモチーフになっています。例えば「met an angel」というフレーズをVHSテープのタイトルのように入れていて、これは作家の中島らもさんのエッセー(※1)から着想しています。死にたくなるような絶望している時に道端にある花や景色、誰かのなにげない言葉に救われることを「その日の天使」という風に書いていて、とても好きな言葉です。僕が好きなバンドのドアーズの曲にも似たような歌詞が出てきて(※2)、自分の中で繋がったんですよね。

ーー 《LOVE》《HELLO》といった文字シリーズの作品から発展したような作品ですね。

《LOVE》や《HELLO》の文字シリーズは、ポジティブなメッセージをストレートに伝えていますけど、VHSシリーズでは言葉のふたつの側面に着目しています。英語のスラングの「Dope」は麻薬といった意味がある一方、カッコイイとかクールといった意味でも使われたり、「LOL」(※3)は英語圏での「(笑)」のようなネットスラングですが、Lots of Loveという捉え方もできたり、そういう面白さも含んでいます。

《HELLO #4》2024
《HELLO #4》2024

ーー 意味がひっくり返るのはスカルの話とつながります。アート作品は、辛いと思える時にポジティブになれるきっかけ、観る人それぞれの“天使”になるのだと感じます。

以前、受験勉強にすごく悩んでいる息子さんのために、と僕の作品を買ってくれた方がいたんです。息子さんは、すごく絵が好きで自分でも描いていたらしいんですけど、勉強に集中するために絵を描くのもアートに触れる機会も少なくなってストレスが溜まっていたようで、その子の部屋に僕の絵を飾ったら元気になったって聞いて、めっちゃ幸せな気分になりました。自分が好きで描いていただけのものを家族でシェアしてくれて、その喜びを伝えに来てくれたのが、とても嬉しかったです。

気分が落ち込んだり調子が出なかったりして描けないこともあるじゃないですか。そんな時、気分転換に映画とか観に行っても作品のことが気になってストーリーが全然入って来ないんですよ。結局、僕は描くことでしか気持ちが昇華されないというか救われないんだなって。

自分が好きで描いているだけなんですけど、自分のやれる範囲で自分が楽しいと思えることをやっていけば、お金だけじゃないところで他の人を幸せにすることができる。アートの力ってすごいなと感じています。

代表作《ドクロくん》や文字シリーズから憶をテーマにした《VHS》シリーズまで。ささやかな思い出があれば、私たちは生きていける。鈴木潤の個展「Precious Memories」は、6月22日(土)〜7月1日(月)まで。

※1 中島らもは小説家・劇作家・エッセイスト。ここで触れているエッセイは「その日の天使」。
※2 ジム・モリソンの詞。 “the day’s divinity,the day’s angel(その日の神性、その日の天使)” 中島らものエッセイも、この詞から着想されたと考えられる。
※3 Laughing out Loud(大声で笑う)の略。

ABOUT ARTIST

鈴木潤
鈴木潤
Jun Suzuki
1991年宮城県出身。鈴木潤は、ポップな線描を特徴とした現代アーティストです。陶芸家の父の影響から幼い頃から様々なアートに触れ絵を描き始めました。生と死や、愛についてポジティブなメッセージを表現し、鑑賞者や未来を生きる人々との心の繋がりができたらという思いを作品に込めています。

ABOUT EXHIBITION

展覧会

鈴木潤 個展「Precious Memories」

会場

YUGEN Gallery
東京都港区南青山3-1-31  KD南青山ビル4F

会期

2024年6月22日(土)〜7月1日(月)

開館時間

平日:13:00〜19:00
土日祝:13:00〜20:00
※最終日のみ17:00終了

休館日

なし

在廊日

6月22日(土)、23日(日)、29日(土)、30日(日)
※在廊日は変更になる場合がございますので、最新情報はギャラリーのInstagramの固定投稿をご覧ください。

入場料

無料

注意事項

※状況により、会期・開館時間が予告なく変更となる場合がございますのでご了承下さい。