ARTIST INTERVIEW

アーティスト、松尾たいこの独占インタビュー

「ずっと絵に夢中。色を塗ることが、いちばん楽しい。」

松尾たいこ 個展「Today is a gift」

<前期/2024年12月12日(木)〜12月25日(水)>

<後期/2025年1月8日(水)〜1月20日(月)>

「自分がハッピーになれるものを描きたい」と話すアーティスト、松尾たいこ。観者と生きる喜びをわかち合うかのカラフルな作風は、彼女にとって絵を描くことが生きる喜びとなっているから。世界を愛で満たすべく、色を塗り続ける彼女に話を聞いた。

ーー子どもの頃からイラストレーターになるのが夢だった?

小学校に上がる時に水森亜土ちゃんのイラストが入った筆箱をもらってからイラストの世界に憧れがありましたが、現実味はなかったですね。高校生の時に進路を決める時、東京の美大に行きたいとも考えましたが、当時は女の子が美大に行くなんていうと親は「おかしなことをしでかすんじゃないか」って心配するような時代でしたし、自分自身もそこまで強い気持ちもなかったので地元の短大を選びました。


その後も地元の有名自動車メーカーに入社することができてラッキーって思ってたし、やっぱり絵をやろうっていうふうには思ってなかったんです。会社も仕事が楽しいというより居心地がいいからいるって感じでした。

でも30歳になる頃に、やっぱり一度は絵の勉強をきちんとしてみたいと思うようになって友達から年齢制限もなく入れるセツ・モードセミナーのことを教えてもらいました。当時のセツは入学をくじ引きで決めていて、くじを引くためだけに有給休暇とって東京に行きました。確か倍率5倍くらいだったように思いますけど運よく当たって、すぐ会社を辞めました。

ーーそこからイラストレーターを目指すことに。

私は絵を基礎から勉強したいとしか考えていなかったですけど、周りは全員イラストレーターを本気で目指していて、すでにイラストレーターとして仕事をやっている人もいる。「東京ではイラストレーターって普通の職業なんだ」と知って、子どもの時からおぼろげにしか考えていなかった夢が本当に叶うかもしれないと実感しました。そこからは毎日描きまくって別のイラストレーション教室にも通って、人の3倍の量は描いていたと思います。


風景を描き始めたのは、この頃です。セツでは毎年希望者だけでスケッチ旅行といってヨーロッパに行く企画があって、そこで初めて風景を描く楽しさに目覚めました。例えば海を描くにしても自分が緑に見えているなら緑色で描いていいし、空がピンクだったらいいなと想像してピンク色に描いてみたり正解がないのが面白かった。その経験が今のカラフルな風景画につながっていると思います。

ーーイラストレーターとして売れっ子に。アーティストとしての意識は?

アーティストになりたいとは全く思っていませんでした。グッズや本の表紙に絵を描きたいと思っていても自分に主張したいことがあるわけではなかったんです。依頼されたものを描いていくイラストレーターになりたかったし仕事は楽しかったので、私が思うように自由に描きたいとかっていう気持ちは全然なかった。


ありがたいことにキャリアを積んでいくと『松尾さんの思うように自由に描いてください』と依頼されることが増えてきて、私は絵を通して何を表現したいんだろう、と考えるようになりました。


イラストレーターとして仕事をする前からも個展をやってきて、それはいわば仕事を取る名刺配りのようなものだったのですが、自分の表現について考えるようになってからは個展は自分が伝えたいものをお見せする場になっていきました。


それでもアートって自分の中の核、芯となるものがなければいけないと思っていたので、自分のことをアーティストと名乗ることはしてきませんでした。名乗っていいかなと思えるようになったのは4、5年前のことです。表現する芯の部分が決まったからです。

ーーアーティストとしての芯とは?

目には見えないけどすべてはつながっている、私たちはいつも何ものかによって見守られていて「人間はひとりじゃない」ということ。そんな世界はきれいな色で溢れているということが自分の作品のテーマになっていくと思えた。私はいろんな技法を試すのが好きで、今後絵の描き方が変わったとしても、この真ん中の部分は変わらないと確信しました。

ーーそれは、日本古来からの価値観に影響を受けた。

書籍の企画で伊勢神宮を取材し神社を巡っていくなかで八百万の神とか古来から日本で信じられてきたものがスーッと自分の中に入ってきた。ずっとスピリチュアルなことって苦手だったし信じられなかったのに興味が出て神道や陰陽五行、禅の本を読み漁って、あれこれ考えたりしているうちに森羅万象に神が宿るという思想が自分のなかで落ち着きました。


なぜ、そう思えるようになったかというと、私はずっと世界中のものを愛でる気持ち、愛でる目で見ていたことに気づいたんです。カラフルな色を塗りたいというのも世界を愛でる感覚だったんだなと。カラフルな色でみんながハッピーになって欲しいという感覚を言語化できたように思います。

ーーそこから絵を描く上で変化はありましたか?

伊勢神宮は一箇所にあるものだとずっと思っていたのですが、聞いてみたら125社もある。最初は狛犬とかを描けばいいかなと軽く考えていたものの、内宮や外宮の遥拝所には石が置いてあるだけだったりして描き分けが難しい。そこで『あの時、風が吹いていたな』『あそこでは草の匂いがすごくしたな』ということをメモにとっていったんです。目に見えないものを言葉から発想して色と形で表現していくアイディアを思いつき、表現の引き出しが一気に増えましたね。それまであまり使わなかった原色も使うようになったのも、その頃からです。

ーー日本的な感性に触れて陶芸や絵に金箔を取り入れるように?

それもありますけど、長くイラストレーターをやっていると技術に走ってしまったり完成形が見えてしまって絵を描くことに疲れた時期があったんです。その頃、陶芸を習ってみて絵筆を介さず自分の手から直接形が作られていくことが新鮮だったし、土、水、火、空気と自然物だけで作品が出来上がっていくのがいいなって。絵のように完成形が見えることもなく予想外のものが出来上がるのが刺激的でした。今はちょっとお休みしてますが、陶芸をやったことで改めて絵の面白さにも立ち返ることができました。


陶芸以外にもいろいろな画材を試したくて日本画を習ったり水墨や泥絵具も使ってみたこともありましたが、くすんだ色合いが自分にとってやっぱり違うなって感じて、色に関してもいろんなことを試して一周回って、やっぱり私はアクリルガッシュで色を重ねていくことが好きというところに行き着きました。


子供の時に水森亜土ちゃんに憧れて、〈トムとジェリー〉やチョコレートの〈M&M'S®〉のパッケージとかハッピーな気持ちになれるカラフルな絵ばかり描いていて、それはずっと変わらない。やっぱり色を塗っている時がいちばん楽しいです。

ーー30歳くらいまで本気ではなかったというのがウソだと思えるほど絵に夢中ですね。

ファッションも大好きで街で見かけた洋服の配色から「こんな風景を描いたら可愛いな」といったことばかり考えてます。常に作品をどうしたいか、自分はアーティストとしてどうなりたいかということをずっと考えていて、いつまでたっても満足できず、また描いてを繰り返して気づいたら26年です。絵が日常の中心。だから、絵を描き続けるために健康寿命を延ばすことが今いちばんのテーマです(笑)。


金地に龍を描いた《全霊の守護 降臨す》など実在しない生き物をモチーフにした作品には、絵に対する松尾の貪欲さも感じ取れます。その核心は世界を「愛でる」心。



目まぐるしく過ぎていく日々をどうか大切に愛でて欲しいと願う個展「Today is a gift」は、12月12日(木)〜12月25日(水)と2025年1月8日(水)〜1月20日(月)の前後期間にわたって開催します。

ABOUT ARTIST

松尾たいこ
松尾たいこ
TaikoMatsuo
アーティスト、イラストレーター。広島県呉市生まれ。広島女学院大学短期大学部卒業。約10年間自動車メーカーに勤務した後、32歳で上京。セツ・モードセミナーを経て1998年よりイラストレーターとしてデビュー。雑誌、広告のイラストレーション、300冊以上の書籍の表紙装画を手がける。

ABOUT EXHIBITION

展覧会

松尾たいこ 個展【福岡】

会場

YUGEN Gallery FUKUOKA
福岡市中央区大名2-1-4 ステージ1西通り4F

会期

前期/2024年12月12日(木)〜12月25日(水)
後期/2025年1月8日(水)〜1月20日(月)

開館時間

11時〜19時
※最終日のみ17時まで

休館日

毎週火曜日
※ただし、会期中に臨時休業日があります。詳細は注意事項をご確認ください。

在廊日

なし

入場料

無料

注意事項

※2024年12月26日(木)〜2025年1月7日(火)は冬季休業となります。

また、状況により、会期・開館時間が予告なく変更となる場合がございますのでご了承下さい。