辰巳菜穂 個展「XING」【東京】

2025年11月22日(土)〜12月15日(月)

YUGEN Galleryは、11月22日(土)〜12月15日(月)の期間、辰巳菜穂の個展「XING(クロッシング)」を開催いたします。

Exhibition Information

Venue

YUGEN Gallery
KD Minami Aoyama Building 4F, 3-1-31 Minamiaoyama, Minato-ku, Tokyo

Dates

2025年11月22日(土)〜12月15日(月)

Opening Hours

Weekdays: 13:00-19:00
Weekends and holidays: 13:00-20:00
*Ends at 17:00 on the final day only

Closed Days

None

Admission Fee

free

Notes

※在廊日やレセプションについて、最新情報は随時こちらで更新いたします。
※状況により、会期・開館時間が予告なく変更となる場合がございますのでご了承下さい。

Exhibited works images

Statement

偶然に浮かぶ世界の風景

異なる青の階調で塗られた空、建物や看板を単純な矩形として取り込み、原色豊かに描かれる風景。世界のどこかにあり、どこにもない場所。

辰巳菜穂はGoogleストリートビューにある世界中の街角のデジタル画像を収集し、アングルや時系列が違うカットをデジタルツールで重ね合わせ、複層的なイメージとして再構築。デジタルで起こるバグ効果も組み入れた風景画を描いています。

辰巳は筑波大学で建築を専攻。卒業後は服飾を学ぶなどもしましたが、「手の感覚から遠かった」として絵の道を選びます。イラストレーターとしてキャリアを開始し、2017年から画家として国内外で作品を発表。イタリア・Corraini Edizioni社から作品集「Un Sedicesimo」が出版されるなどグローバルで評価を獲得しています。

建築を学んでいた背景から構造や形象に関心があると思いきや「色が断然好き」と語る辰巳。絵を描く行為は色との偶然の、一回性の出会いを感受するためにあるといえます。道路標識、看板、建築物をモチーフに色の組み合わせの面白さを発現させる作風が特徴です。

「この世界は無限の選択肢をつなぎ合わせた偶然の上に成り立っている。その偶然性の密度を高め、新しい風景画に挑んでいきたい」。瞬間の光の変化で様相が一転する風景、デジタル空間に起こるエラー、絵を描くなかで突如現れる色。偶然性のなかに漂う世界の無限性を身近な風景に投影しています。

固有の意味を無化する色彩

本展タイトルはアメリカの交差点の標識“PED XING(pedestrian crossing)”から着想。「万人に同じ意味を伝える記号を、見る人によって違う意味をもつ絵画にする。その反転で何が起こるか興味がある」。標識や看板は情報化社会の象徴として取り込まれ、そこに交錯する人間の感情、過ぎゆく記憶を「風景」として留める約15点を公開します。

絵具の触地感と赤、黄、ピンクといった彩度の高い色彩は画面にリズムをもたらし、人の気配がない景観に生気を孕ませる。標識では赤色は規制、黄色は警戒といった固定の機能を託されますが、辰巳の力強い賦彩は見たままではなく心で感じた色彩との戯れによるもの。色に感応した作家の感情の増幅が観る者の感覚を揺さぶり、色の意味は無化していきます。

辰巳の画面から想起するのは、スティーヴン・ショアなど1960年代後半に起こった写真表現の潮流「ニューカラー」や映画監督のヴィム・ヴェンダースの写真作品。それらの写真では旅する視線が偶然捉えた風景が示された一方で、辰巳はデジタル空間を移動する視線で風景を拾い上げていきます。ここに「世界をどう見るか」「見ることは誰のものか」という写真登場以後の絵画、現代の複雑化するメディアの根本課題へのアプローチがあります。

カメラは写実を担い、映画やテレビが時間体験を拡張する。そして、インターネットをはじめとするテクノロジーは視点を超拡張し、人間が見ることの出来なかったものが見られるようになった。そして高度なネットワークで分散する視点。私たちは現実世界を遠隔的かつ無限に見ることに。

人間が「見る」ことの豊かさ

古今東西、絵画とは誰もが経験したことのある風景を記憶と交錯させる行為でありました。その上で、現実としてその場所に行かず「美的意図はなく単に情報として置かれる」画像から組み立て、目の前にある風景でさえも遠隔的に経験することになった空虚さ、情報が交錯し真実が見えなくなっている世界を重ねる点に辰巳の絵画の同時代性があるといえます。

色彩豊かなモチーフの後景である空にも緑やピンク、白の反射が混じり、その筆跡は空気の揺らぎや光の移ろいを感じさせる。ヤシの葉ひとつにも赤、黒と万感の気配が潜み、絶えず違う色へとうつろう。インターネット上に散在する風景と画家の内面に反射した光が交差し、絵画は呼吸を始める。

意味はいつでも逸脱し、世界はまったく違うものに変容していく。考えはすれ違い、記憶は曖昧で、世界の実像は定かではない。私たちの存在も絶対的な理由があるのではなく、たまたまこうなっているだけというドライさ。

生の偶然もアルゴリズムに置き換えてしまう現代にあって、世界は散在している。デジタル起点の風景に人間が「見た」痕跡を取り戻そうとする辰巳菜穂。有限である人間が世界を見ることの豊かさ、その無限性を示しています。

About sales of artworks

展覧会開催と同時にYUGEN Gallery公式オンラインストアにて、作品の閲覧・ご購入が可能となります。

Naho Tatsumi
Naho Tatsumi
Nao Tatsumi
Born in Fukushima Prefecture. Graduated from the Department of Architectural Design at the University of Tsukuba, and is based in Yokohama. Using streetscapes from around the world collected during virtual travels on Map as his motif, he finds aesthetic value in the accidental phenomena generated in digital space, and creates unique landscape paintings by overlaying his own errors onto them. He has exhibited at numerous exhibitions both in Japan and abroad, and is also involved in a wide range of projects, including advertising creative and murals for restaurants and hotels.