ARTIST INTERVIEW

「自己肯定感がなく複雑な私たち。だからこそ生きるに値する。」C.P.S の独占インタビュー

個人の物語への希望

C.P.S グループ展「COMPLEX」

<2025年6月12日(木)〜6月26日(木)>

1980年から90年代に韓国に生まれた同世代アーティストが起点とするのは世界の複雑さや個人が抱く劣等感ーコンプレックス。ソウルを拠点とするアート・コレクティブC.P.S(Complex Seoul)が示すのは「個人の物語」への希望である。リーダー的存在のジュ・ジェボムに話を聞いた。

C.P.Sとはどのような集まりなのですか。

ソウルという複雑なアイデンティティをもつ都市で、それぞれがもつ複雑な感情や自我に各々の方法論でアプローチするアーティストの集まりです。 メンバーは固定されていません。プロジェクトの内容やテーマによって新しいアーティストが合流し変化する柔軟な構造を目指しています。 今回集まったメンバーも昨年から対話を重ねて関係を築き上げ、以前からひとつのチームであったかのように準備してきました。

メンバーについて教えてください。

275Cさんは会って話していると、さまざまな経験を積んだ熟練した大人という印象を受けますが、作品には純粋でウィットのある感性が込められています。自由奔放でいて実は繊細。多様な感情が隠れている人であることがわかります。

キム・ドンホさんは無愛想な表情から誤解を招くことが多く、外見に対してコンプレックスを抱いていたそうです。でも、彼の描くキャラクターは多彩な世界で自由を享受し、むしろ羨ましいほど自然で幸せそうに生きている。彼がコンプレックスに向き合ってきたことが伝わります。

ソル・ドンジュさんは欲望や寂しさなど数多くの感情が絡み合っている都市の風景と人々の姿を描いてます。都市という複雑な生態系の中で個人の感情、そしてアイデンティティを探求する彼のテーマは今回の展示をもっともよく表しています。

イ・ドンフンさんはステッカーショップも運営し、デザイン、ビジネス、そして芸術家と多彩な才能を発揮しています。モチーフにもなっているステッカーは単に商業製品であることを越え、個性と物語を盛り込んだ小さな芸術作品であることを教えてくれます。

私はピクセル表現を採り入れた作品を制作しています。私たちはみんな小さな記憶と感情が集まって作られた複雑な存在です。ピクセル一つひとつが集まって一枚の絵が完成するように人生も物語が幾重にも積もり、今の姿を作っていることを表しています。複雑さをピクセルで表現することには苦悩とは楽に向き合い、自由になって欲しいという願いを込めています。

5人は同世代。世代で抱える葛藤はありますか。

ここは日本とも似ているのではないでしょうか。私たちは30代後半から40代ですが、さらに上の世代は一生懸命働いた分だけ収入が増え、会社で出世をし家を持つなどわかりやすく豊かになることができました。しかし、我々やさらに下の世代になるとそうではない状況があります。努力しても報われないといいますか自分を満たすことが難しく、多くの人が寂しさを感じています。

しかし、希望もあります。私の作品に興味を持ってくれている若い人と話していると、K-POPのように世界に発信力がある韓国に誇りを感じている人も多いことがわかります。報道などで言われる若い世代の韓国嫌いというのは当たっていますが、当たっていない側面もあります。

昨年、展覧会「COMPLEX FUKUOKA」を開催しています。福岡では、どんな発見がありましたか?

福岡は本当に魅力的な都市です。私たちはみんなラーメンが好きで、それが高じて福岡のラーメン店とのコラボレーションもしているくらいなんですよ(笑)。見慣れないようで、韓国と文化的にも近しい感覚をたくさん発見することができました。 落ち着いてゆったりした雰囲気にもさまざまな文化や歴史、アイデンティティが積み重なっていることを感じます。

私たちは「Complex」というテーマで作品を発表していますが、表面的には柔らかいけれど内には実に複層的な物語がある福岡は私たちの制作ともよく合っています。来場してくれた方々は単に視覚的な楽しみだけでなく、その中に込められた作家個人のストーリーや複雑な感情にまで深く関心を持ってくださいました。 その態度が印象深く、たくさんのインスピレーションを与えてもらいました。

国際的な発信力を高めている韓国の現代アート・シーン。日本のそれとの相違点について考えたことがあれば教えてください。

韓国の現代美術は今、非常に速いスピードで成長しています。 特に海外アートフェア、レジデンシー、キュレーターネットワークで韓国作家の存在感がますます大きくなっています。 エネルギーと速度、そしてトレンドを読む感覚が非常に優れていると感じます。

一方、日本の美術はもう少し内省的で持続的な流れをもっています。 その時々の話題性ではなく長期的に思考を積み重ねていくことを大切にし、 展覧会場の運営や企画面にしても細やかさと深みを感じることができます。

今回の展覧会で期待すること。

表現するものも手法も違う韓国の作家が集まり日本で作品を発表することは、私たちにとって新しい経験です。YUGEN Galleryで作品を見てくださる方々にとっても新しい経験となるのではないでしょうか。共に変化することができる場になることを期待します。

先ほども紹介したように私たちはそれぞれに悲しみも楽しみも抱えて生きています。他人から見ればとても些細なものかもしれませんが、隠したい気持ちが働くものです。しかし、それは恥ずべきことではない。その人にしか語れない物語であり、人を癒す特別な力を持っていると私たちは信じています。

特別なストーリーであることを伝え、語り合い、刺激を与え合う。お互いの異なる魅力が生み出され、はるかに豊かな流れになることを願っています。

自己肯定がしにくく世界から取り残されたかのように思うのは、国を越えて同時代に生きる者に共通する感覚なのかもしれない。それぞれが自らに寄り添い見つけたかけがえのない物語は誰かの救いとなる。語り合いの場としての展覧会「COMPLEX」は、2025年6月12日(木)〜6月26日(木)の期間に開催。その後7月4日(金)より、YUGEN Gallery(東京)へ巡回展示します。

ABOUT ARTIST

275C
275C
Ichiro.C
「嗜好の肖像」という制作観をもとに、ユーモアとウィット、言葉遊びを織り交ぜたテーマを秩序とバランス、そして変奏(ヴァリエーション)によって表現する。ポップアートを基盤としたビビッドでキッズライクな感性を特徴とし、成熟と無垢、自由さと繊細さといった相反する要素が同居する自己の両義的なありようや、内面の矛盾や揺らぎを、加工せず、そのままのかたちで作品へと映し出している。 ペインティング、立体、グラフィック、映像など、多様なメディアを横断して活動。展覧会の開催をはじめ、ブランディングや企業・ブランドとのコラボレーションまで、ジャンルを超えた実践を行っている。
イ・ドンフン
イ・ドンフン
Lee Dong Hoon
都市と日常、個人の趣向をテーマに「お土産(Souvenir)」をモチーフに制作。特に好んで使用する「ステッカー」の形式を借りて、明快で楽しいアートワークを生み出している。 ステッカーを単なる商業的なプロダクトとしてではなく、個性や物語を内包した「小さな芸術作品」として位置づけているのが特徴である。 グラフィックデザインスタジオのディレクターであり、アーティストとしても活動。さらに、ブランドとのコラボも行う、ソウル拠点のアートスーベニア・プラットフォーム「Seoul Sticker Shop」を運営。
キム・ドンホ
キム・ドンホ
Kim Dong-ho
ペンと筆を使い、旅や日常の中で出会った風景に空想のキャラクターや物語を加えて絵を描く。 作家自身は、幼い頃から無愛想な表情によって誤解されることが多かったが、作品に登場するキャラクターたちは、複雑で多彩な世界の中を自由に、そして楽しげに生きている。 どこか羨ましさすら感じさせるその姿は、自然体であり、幸福そのもののように映る。現実に非現実的な要素を織り交ぜながら、時には世界を風刺し、時には人間の痛みや温かさを描き出す。
ジュ・ジェボム
ジュ・ジェボム
Joo Jaebum
ピクセルという小さな単位を通じて、多様な形と感情を表現する。 人間の存在は、記憶や感情といった微細な断片の集合体であり、日々ふと立ち上がる情景や感情の揺らぎが、個をかたちづくっていく。そうした思いのもと、作品を制作している。 無数の断片が織りなす「個人の物語」と同様にひとつひとつの経験や想いが、ピクセルのように重なり合い、やがて一枚の人生の絵となる。作家はその繊細な集積を、丁寧にすくい取り、かたちにしていく。
ソル・ドンジュ
ソル・ドンジュ
Seol Dongju
都市を歩き、観察し、日常に溶け込んだ風景をペン画と写真で記録。目立たない風景の中の違和感やユーモアに興味を持ち、ふと目にとまるものや気になる光景を手がかりに、都市の物語を描き出している。 「City Trekker」としての作家は、都市という複雑な生態系のなかで、個人の感情やアイデンティティを探っていく。作品を通じて、自身の感情を確かめたり、その輪郭を探し出したりすることが、制作の原点となっている。

ABOUT EXHIBITION

展覧会

C.P.S(Complex Seoul) グループ展「COMPLEX」【福岡】

会場

YUGEN Gallery FUKUOKA
福岡市中央区大名2-1-4 ステージ1西通り4F

会期

2025年6月12日(木)〜6月26日(木)

開館時間

11時〜19時
※最終日のみ17時まで

休館日

毎週火曜日

レセプション日程

6月12日(木)16時〜19時

在廊日

6月12日(木)、13日(金)、14日(土)、15日(日)

入場料

無料

注意事項

※在廊日やレセプションについて、最新情報は随時こちらで更新いたします。
※状況により、会期・開館時間が予告なく変更となる場合がございますのでご了承下さい。