日常に生まれる新しい調和
雲やタコが絡み合い、そのうねりに戯れるかのように描かれる花鳥。太く縁取られたラインに水色が印象的な画面。ごく限られた色数にも見るほどに想像をかき立てられる世界観を展開するグラフィックアーティスト、WOK22(ウォック22)。YUGEN Galleryの2023年のオープニングエキシビジョンとなった、アジアのアーティスト6名によるグループ展「Freestyle Asians」にも参画した作家のソロ・エキシビジョンとなります。
幼少の頃から空を眺めるのが好きで、刻々と形が変わり光によって違う表情を見せる雲に想像を膨らませることは心の安らぎだったというWOK22。特に新緑の季節、芝生の香りを嗅ぎながら空を見ることは至福の時と話し、秋の枯葉の香り、木漏れ日といった折り重なる自然からインスピレーションを得ています。
本展「W FLOW」では、そうした風や草花の香り、街の喧騒といった日常生活の中で五感に触れるものが混じり合い調和していくさまをイメージしたペインティング、そして近年取り組んでいるLEDネオンを使った作品約20点を展示。自然、そして人工物が発する波動を大きな川の流れに見立て、その中に身を浸してわき上がってくる感情を描き出します。
雲や触手で表現する“つながり”
WOK22は1986年愛知県出身。幼少期に移住した福岡を拠点に創作活動を行っており、〈STUSSY〉や〈Adidas〉といったグローバルブランドから博多人形、福岡の小石原焼きといった伝統工芸まで多岐にわたるコラボレーションワークも数多く手がけています。
幼少期の頃、母親が持っていたレコード、なかでもキース・ヘリング作品がジャケットに採用されたオムニバスアルバム「クリスマス・エイド」シリーズをきっかけにレコードジャケットのカッコ良さに魅せられたといいます。音楽の道を志し、思春期にはバンド活動に励むいっぽうでCDやレコードの“ジャケ買い”から「良い音楽には良いジャケットがある」と認識。
「バンドか絵でしか将来を考えてなかったけれども、グラフィックやアートを作りたい気持ちがゆっくりと出来上がっていった」
デザイン専門学校を卒業後、会社勤めをしながらクラブシーンでライブペインティングを開始。誘われるがままに始めたライブペインティングを当初は退屈に感じていたといいながらも「いわゆるグラフフィティアートではなかった」WOK22の作風はオーガナイザー達の目にとまり、そこからことづてに音楽とペインティングを融合した活動が広がっていきました。
当時パルコなど商業施設が新たに福岡に進出し始めるに伴い企画されたアートプロジェクトにクラブシーンで活動していたペインター達が招聘され、アンダーグラウンドからオーバーグラウンドへとWOK22もストリートの流儀でステージを高めスタイルを育んできました。 WOK22の有象無象が空間を自由自在に往き来し関係し合う「つながり」をテーマにした作品やライブペインティングで発揮される一体感のある空間描写は、こうしたアートと人、そして社会との関係性のなかでせり上がってきたものといえるでしょう。
真理の象徴としての雲
“昔からモチーフにしていた雲や触手。 どちらも浮遊感があり、さまざまな空間や物などに絡みつく自由な柔らかさを感じる。ふだん生活している中で生まれる感情、そしてライブペイントで会場の空気感に反応し生まれた感覚がまさに絡み合うようにして描くと触手は雲のように、雲は触手の模様のようになっていく。”
長らく描いてきた雲や触手。最近ではこれらのモチーフも分かちがたい、何ものともいえない一体化した存在に変わってきていると話します。これは、アートプロジェクト参加のために訪れた北海道での経験が影響しています。
「北海道では手が届きそうなところに雲があり、これまで大きな塊としか見えてなかった雲が細胞のような小さな生命体の集まりに見えた。ゆっくりとした動きで結びつき常に形を変え、形をなしたと思えばすぐ消えてしまう。そこには儚さも感じた」
WOK22が描くのは決めつけることなく、おもねることもなく異物同士がつながり生まれる「新しい調和」。ここに雲は、人間が決して掴むことができない真理の象徴としても浮かび上がってきます。葛藤を越えて目指す調和とは雲のように壮大で、しかしはぐれゆくもの。雲を掴むように生きていく私たちのグラフィティがここにあります。