生きているエネルギーを描く
原色やネオンカラーがリズミカルに展開される抽象表現、ポップでフィギュラティブな主題の具象作品。エネルギーに満ちた画面が観る者に強い印象を残すアーティスト、鮎川陽子。YUGEN Galleryでは2022年のオープニング・エキシビジョン以来の登場となります。
本展では、新作を中心に絵画作品約20点を展示。2024年、アートプロジェクト「つなぐ美デザイン」(※)で起用された幅6mのヘンプ幕に描いたアブストラクト・ペインティングは鮎川にとって初めての大型作品であり、見所です。
モデルとして活躍後、鮎川陽子は2017年に展覧会への出品を誘われ、本格的に絵を描くようになります。以来、画家として作品を発表。個展やグループ展を開催するだけでなく、企業とのコラボレーションやアートプロジェクトにも精力的に参加しています。
本展タイトルが示すように、絵は「他の世界への入り口」と話す鮎川。作家自身の内的世界を写すだけでなく、観る人の想像力を広げ、それぞれの新たな世界が開けていくことを願っています。
「絵が入り口になって、いろんな世界に行ければいい。私自身が絵を描くこともそうだし、絵を見てくれた人が絵の向こう側にあるものを想像してくれる。それは、私が見てる世界に近いようで近くなかったりもする。いろんな人が想像するもの全部が面白い」
想像力が広がり、世界は開かれる
大切にしているのは制作過程で起こる、ひらめき。「具象画は事前に構成を考えていますが、抽象画は何も決めずに描いていきます。制作の過程で物語が生まれるのが魅力」といいます。モチーフもスタイルも決めず完成形を定めず、その時々に感じたものを描いていくと、そこに絵が見え、思いもよらなかった世界が生まれてくると話します。
そうした制作スタイルの最たるものでありながら初の試みとなったのが作品《地・火・水・風》。「四次元心理」をテーマに幅約6mの黒いヘンプ地に時間や生命のうつろいを絵巻のようにして描いています。
幾何学的な形や流動的な線の呼応によって音楽的なリズムが感じられる点は鮎川ならではといえ、大画面に深淵な生命力がスケール感をともなって現れています。多くの要素を分割し、規律性ある画面として構成している点にはグラフィックデザインの経験やイラストレーションのキャリアがあることもうかがわせます。
これほどのサイズに描くのは初めてというだけに画業において画期的な作品であり、大画面でこそ彼女の世界観のダイナミズムを確認することができます。
色と形象が響き合う
抽象、具象を問わず鮎川の作品に見られるのは、高彩度な色を並べることで起きる視覚的な振動、そして補色関係によって生まれる複数の力の呼応。彼女にひらめく色の重なりは本能的なエネルギーに溢れ、力強い筆致のマチエールに生命感が表れています。
「生きているエネルギーを絵の中で表現したい。絵は私自身だと思っています。私が現実に生きている世界と、わたしの精神や体験、人間関係、感情を全部入れたい。自分から出てきたものすべてを絵にして、絵を見てくれた人がポジティブな気持ちになってもらいたいと思っています」
絵画を色と形象が影響し合う場とし、それらをぶつけ合うようなエネルギーが溢れる。一方で、画面の奥には太陽のような穏やかで安心感のある光の宿りも感じることができます。ここに、多様なものを引き合わせ良好な関係を探りながら前進する、強くも柔らかい彼女の心根を見てとることができます。
色と形象、ひらめきと秩序の共存。鮎川陽子の色彩のリズムは、私たちを不穏な世界から連れ出し、世界を開いていく力にあふれています。