袁方洲は、人工と自然の相互作用や、その間で絶えず変化し続ける「臨界状態」をテーマに制作を行っています。作品づくりにおいては、焼成、破断、切断、研磨、積層といった多様な工程を用い、ガラスに生じる亀裂や歪み、断面を作品の一部として取り込みます。
人工的に成形される一方で、熱を加えれば流動し、冷却や重力によって歪みや亀裂を生じるガラス。その振る舞いは人間の意図だけでは完全に制御することができません。袁は、そうした素材の性質を受け入れながら制作することで、人の意志と自然の作用が交差する状態を作品として立ち上げます。
今回の展示では、個々の作品だけでなく、作品同士の距離や高さ、空間との関係性、垂直方向への展開にも着目します。鑑賞者が会場を移動し、見る位置や光の当たる角度が変わることで、ガラスの透明性や断面、亀裂、積層がそれぞれに異なる表情を見せます。こうした素材そのものが持つ多様な見え方を通して、建築の遺構や、いまだ形を定めていない地層を思わせる風景が立ち現れます。
そこにあるのは、構築されたものとも崩壊したものとも言い切れない、両者の間にある状態です。本展では、固定された完成形として世界を捉えるのではなく、生成と転化を続ける過程の一瞬に目を向け、その境界に現れる不安定な存在「臨界体」を空間全体を通して提示します。
アーティスト・ステイトメント
「The Critical State ― 臨界体」について
「臨界体」とは、ある状態から別の状態へと移り変わる、その境界にある存在を意味している。私がこれまで制作を通して関心を持ってきたのは、人工と自然、制御と偶然、生成と崩壊といった、相反するものの間に存在する曖昧な状態である。
ガラスは、このような「臨界」を象徴する素材だと考えている。人工的につくられた素材でありながら自然由来の原料を持ち、熱を加えることで硬い固体から流動する状態へと変化する。また、冷却や重力によって歪みや亀裂、破断が生じるなど、人の意図だけでは制御できない性質を持っている。本展では、こうしたガラスの不安定さや変化を通して、人工と自然の境界に存在する「臨界体」を提示する。
中国・清華大学で培った高度なガラス工芸技法を礎としながら、来日後の東京藝術大学大学院において、素材そのものの性質や現象に着目した現代美術としての探求を深めてきた袁方洲。特に「もの派」をはじめとする日本の現代美術から強い影響を受け、物質に過剰な意図を委ねるのではなく、熱や重力、時間といった自然の作用がもたらす痕跡を受容し、作品のうちに共存させる独自のアプローチを築いてきました。
確かな工芸的背景と現代美術の視点が交錯するなかで生み出される、不確かでありながら美しいガラスの表情。人の手によって形づくられたものと、人の制御を離れた自然の作用。その境界に立ち現れる「臨界」の状態と、刻々と表情を変える物質のありようを、ぜひ会場でご覧ください。