概念を排除した純粋な創作
色が溶け出し混ざり合う。意図せず画面に現れるイメージ。渦巻く海面や鉱石の断面といった自然美を思わせ、生命のダイナミズムが迫る抽象絵画作品を発表する画家、スギヤマタクヤ。多摩美術大学で空間設計やデザイン理論を学んだ後、アメリカ・ニューヨークのAGORA GALLERYが作品を取り扱ったことから画家として活動を開始。国内外の個展、アートイベントで精力的に作品を発表しています。
「星や海、作為のないものに美しさを感じている。この世界の現象をありのままに捉え、そこに絵が起きてくることにフォーカスしている」と話すように、人間の意図や概念を排除した純粋な創作プロセスとしての美術を実践しています。
絵画のプロセスで作る展覧会
本展のタイトル〈Reincarnation〉とは「輪廻」「生まれ変わり」の意味。スギヤマは、生命とは現象であり、死によっても途切れることなく永遠に移ろいゆくものであるとします。植物が枯れ、葉が落ち、大地に還っていくのを死として切り取るのではなく、生の循環の現象でしかない、うつろいゆく中での一過程として捉える。そのように生命は長いうつろいの中に深まり、多様に影響し合い広がり、うねりとなっていくことを表現します。
うつろう生命の物語を捉えるべく具象と抽象の間を描いた絵画約20点に加え、刀鍛冶とのコラボレーションによる日本刀作品など作家の初の試みが詰まった内容となっています。
スギヤマはキャンバスに向かう際、構想も下絵の準備もなく、線が形をなすまま色が反応し合うままの現象を捉えているといいます。いっぽうで、個展など展示空間を作り出す際にはコンセプトから組み上げ、絵画でのオートマティズム的な手法とは真逆の目的的なアプローチをとっていたとも。
今回は、絵画作品のアプローチで展示空間を作り上げるとしたら? とのコンセプトで構成。一枚の絵画からの連鎖反応的な出来事に立ち会っていくインスタレーションとなっています。
青い卵から展開される物語
「Reincarnation」のはじまりとなるのは、全面黒地に青色の卵を描いた作品(タイトルはなし)。「生命と物質の間の存在としての卵。そのままでは何も生まないけれど、受精して何かが始まる可能性に満ちたものになる。卵という自己完結の世界から摂理が始まる。外の世界と反応し、エネルギーが流れていく」さまを捉えています。
色の相関性が高く、宇宙的な広がりが表現でき「いちばん魅力を感じている」という青色。描かれるのは概念を持たない、ただの形。彼方の惑星、極小の細胞のようにも見えるけれども、どれとも限らない。本展のファーストシーンとなる絵画は物語の行方をスリリングに予感させ、深い闇にうごめく摂理として浮かび上がります。
そして、スギヤマが白鞘に絵を描いた日本刀。砂鉄と木炭の変化によって生まれる日本刀はエネルギーの結晶化であり生命現象そのもの。生命のうつろいの象徴として提示します。
「刀といえば武器という概念がある。しかし、暴力をイメージさせるものも自然物が変化した造形物。石や鉄、工業製品といったすべては常に変化のなかに現れる現象であり生命そのもの、という感覚が僕にはある」
有限の状態から無限に広がる生命感
「概念をもつことは、あらゆることを区分けしていくこと。概念を多くもつほど不自由になっていき、閉鎖的な感覚に陥っていく。そこから断絶が生まれるのではないか。概念を解体し、目の前のことに反応していくことで世界は拡張される」
人は概念や価値観から解放されることで、もっと自由になれる。目の前の出来事に意味を汲み取るのでもなく、立ち会い反応するだけ。それが、生きとし生けるものの本来の営みであり、創造性と生命を解放するとスギヤマは確信しています。
他にも自身の作品に反応し心に浮かんできた言葉を無作為に紡いだ散文作品も公開。舞台演出や映画作品への出演経験もあるスギヤマならではの意味を解体した言葉遊びにも、生の可能性の広がりが見て取れるでしょう。支持体やスタイル、あらゆるラベルを取り払い、ギャラリーという有限の空間から生命感が無限に広がっていきます。