色の強度が増した新作
野生動物の本能や生き方に惹かれ“NOMAD HEART/自由な心”をテーマに作品を発表するアーティスト、ジョージ・ハヤシ。多くの反響があった2022年YUGEN Galleryでの個展「COSMIC DUAL FORCES」から、さらにエネルギーを充溢させた新作を中心に約15点を公開する展覧会「SURE SHOT」。
前回の個展では、風水の「太陰太極」を踏まえ動物や自然が内に湛える静的なエネルギーと外部へ発散する動的なエネルギーの拮抗を表現。そこからエネルギーの普遍性をテーマとするのが本展となります。
ジョージ・ハヤシは、祖母である日本画家の林素菊に習った水墨画とストリートカルチャーを融合。トラやライオンといった動物をモチーフにした具象画と赤色を印象的に用いる力強い色遣いの抽象表現を組み合わせた作風は、国内外で高く評価されています。
最近、宇宙の起源や自然科学に関する解説動画を聴きながら制作をしているハヤシ。自然界におけるエネルギーの実態を知ったことから今回のテーマを思いつきました。
「色や光といったものはエネルギーの変化の現れであって、目に見えるものは変わってもエネルギー自体は永遠に残っていくことを知り、自分の感覚とつながった」
未来へエネルギーを放射する
ハヤシがこれまで一貫して創作のモチーフとしてきた自然のエネルギーのように、アートのエネルギーも観る者に永遠に残るとし“狙ったものを外さない”“確実な一発”といった意味合いの「SURE SHOT」をタイトルに掲げます。
「僕らアーティストが描いた絵をちゃんと見てくれたら、そこに込めた感情とか記憶はさまざまな変化をしながら、人にずっと残っていくと信じてます。インパクトのあるエネルギーの波動を未来に向けて打つつもりで描いている」
生まれ、生きた一分一秒が未来へのエネルギーとして残り、遠い未来の子孫が発見する。そんなイメージで「エネルギーの色の破片を集めて放射」するように作品を制作しているといいます。
「前回は3年ぶりの個展で全力で取り組んだものの今、振り返ってみると思いっきり色を使うことが出来ていないようにも感じた。世の中が普通に動き出すようになり開放的な気持ちになって、社会的な意味やテーマを問うより思いっきりやったものを観てもらう。今回は、そんな単純な目的でやりたい」
2023年5月5日、世界保健機関(WHO)事務局長が新型コロナウイルスを巡り緊急事態の終了を宣言。リスクは残り、引き続き社会全体での警戒はしつつも日常に向けて動き始めたことは創作のモチベーションにも影響しています。ハヤシも本展の直前の5月には中国福建省や兵庫県神戸市で展覧会や企画展が立て続けに開催され、その準備に追われつつも描くエネルギーに満ちていることを実感しているといいます。
絵画とは生命の誕生の目撃
毎回、展示テーマとは別に名画へのオマージュ作品も発表してきたハヤシは、今回グフタフ・クリムトの「接吻」に取り組みます。この名画は男女が愛というエネルギーに導かれて一体化し、宇宙と結ばれる超現実を描いているとされています。
「アダムとイヴの話ではないけれど、接吻という作品にも地球のはじまりとか宇宙の起源のようなものを感じる」
例えば一億年前の白亜紀の微生物は、その大半が今なお地層中で生き延びていることが最近の研究結果でもわかっており、そこに夥しい生命の起源と循環が想像できます。
色の小片を明確な輪郭線で寄せ合わせ、動物のイメージを埋め込むハヤシもそのようにして浮遊した生命のエネルギーを一体化させ、そこに現れる超現実世界を描き出します。ここに時空を超えて生きとし生けるもののエネルギーの一体化というテーマが明確に浮かび上がってきます。
今回の制作にあたって、これまでの作品より「色の強さが増している」と話すジョージ・ハヤシ。絵画とは画面の上で色と色がぶつかり合ったエネルギー現象であり、そこに誕生する生命体を目撃することだと確信しています。