ARTIST INTERVIEW

アーティスト、若佐慎一の独占インタビュー

「”体感”を促す美術が生きる意味」

若佐慎一 個展「-奇想天怪-」

<2024年11月29日(金)〜12月16日(月)>

目に見えないものに想像を働かせ、全身全霊で感じることに生きる喜びがある。日本的なる感性、そして人間の普遍性を追求する若佐慎一にとって美術を作ることとは?

ーー美術を志したのは?

中学2年の時です。生きている実感を持ち続けられる人生を送りたいと思っていて、当時、そんなリアリティを感じられるのがサッカーと美術でした。サッカーは年を取ったら走れないだろうと思い、決まった答えのない美術であれば一生チャレンジし続けられると考えました。

ーー大学では日本画を専攻。そこでの挫折に気づきがありました。

大学には博士号の後期課程まで9年間籍を置いていて、教授の助手になるのだろうと思っていましたが、その機会はなくなりました。いわば梯子を外されたかたちで落ち込みましたが、リアリティのある生き方をしたいと思って美術をやっていたのにもかかわらず、院展(日本美術院展覧会)作家になることを目指していたり、結局サラリーマン的な感覚になっていた自分に気づかされたわけです。

そもそも同じ画材で同じ題材を描き、名札を外したら誰が描いてるのかわからないような作品を描き続ける日本画の世界には疑問を感じていたんです。(日本美術院を立ち上げた)横山大観や岡倉天心の思想や哲学には賛同しますが、そこからは大きくかけ離れたものになっている業界的構造に「芸術って、そういうもんじゃないでしょ」と、洗脳が解けたというか一気にハートに火がついた感じでした。

ーーそこからアーティストへ。

その頃『木を見る西洋人、森を見る東洋人』という本に出会いました。「人は風土によってつくられる」とあり、人は本来持っている内的なものではなく生まれ育つ環境や人との出会いといった外的要因に影響を受けると書かれていました。

それまで芸術というものはオリジナリティが重要でゼロから生み出せる人間が芸術家になるのだと思い込んでいましたが、オリジナリティとは自分自身の経験に潜んでいると発想の転換ができラクになりました。

そうして自分を振り返ってみると広島の中心街から程近くの海、川、山と街がバランスよくある場所に生まれ育ったわけですが、山に行けば誰に教えられたわけでもないのに、なぜだか「お邪魔いたします」という感覚をもっていました。小学生の時に海の事故で父を亡くしたことも関係しているのかもしれないませんが、人間は大きな自然の一部として「生かされている」と考えていました。

ーーご自身に日本的なる感性を感じ取ったわけですね。それを表現しようとした時、漫画、アニメも風土であった。

アーティストになろうと決心した時に、この時代に生まれ育った自分がゲームやアニメを取り入れることは、いちばん必要なことでした。それによって日本が西洋ナイズされる江戸時代以前からの日本の美術へのオマージュを作ろうと考えたわけです。

それまで日本の美術を学んできた自分が日本の価値観をどういうふうに見て、同じ時代に生きている人たちにどのように伝え残すかに意味がある。それが歴史の一部になることだと思います。

ーー招き猫や狛犬、獅子をモチーフにしているのは、なぜですか?

日本は古来より森羅万象に神様が宿るという考え方をしてきて、自然や動物への畏怖の念をカタチにし日常の中で共存してきた。招き猫や狛犬といったものも人々の祈りの対象として土地土地の生活に根付いて4、500年という時間のなかで残り続けている。それこそがリアリティ。

誤解を恐れずに言えば、伝統文化といわれるもので消えるものはそれまでであって、人が残そうと努力して残せるものは半世紀くらいなんじゃないかなって思います。本質的に残るものは歴史が決める。そこに興味があるんです。

やっぱり芸術家、美術家として人間における普遍とは何かっていうのを常に考えていて「見えざる者」を表現する上でリアリティのあるものが招き猫であり、狛犬といった歴史に残ったものでした。

ーー人の生活の積み重ねである歴史に認められたもの。どう表現しますか?

今回の展示は、スピーディに変化して超カオティックな現代の世界のメタ的意味で魑魅魍魎といったテーマを設けていますが、作品では一貫して見えざるものへの「畏れ」を表現しています。作風はポップにしてますし、かわいい印象を持たれますが怖いとおっしゃる方はいて、子供さんもカラフルだから近づいてみるけど前に立つとびっくりして動かなくなってしまったり、ご購入いただいた方から後日キャンセルが入ることもあります。理由を聞いてみると「家族が怖がってしまった」と言われます。意図は伝わっていると感じます。

ーー作品の実物を前にしないとできない体験ですね。

まさに、そこが僕の求めることで絵を描くことも、この3年くらいで取り組んでいる木彫の作品も僕自身がフィジカルで表現することに意味があると思っています。観る人に体感を促せるかどうかが作品を作る上でいちばん意図していることなのかもしれません。それがなければ表現する意味がないし見る意味もない。もっと言うと、生きてる意味がない。

作品そのものが何かを放っているともいえますが、それも観る人の思想信条、その日の体調によって見え方、感じ方は変わります。だから、作品が置かれている空間で対峙することで圧倒的な情報量の交換ができるはず。そのリアリティってめちゃくちゃ重要だし、何ものかに思いを巡らすことは生きる原動力であり、生きる意味だと思っています。

「たとえばAppleVisionが人の網膜に入れられるぐらいまでになったら感覚が変わるのかもしれない」とテクノロジーの進歩にも期待を寄せるが、原初的な体験にしか生きる喜びは見出せないと話します。若佐にとって美術とは、生きることそのもの。

「若佐慎一展 -奇想天怪-」は、11月29日(金)〜12月16日(月)の期間に開催。

ABOUT ARTIST

若佐慎一
若佐慎一
Shinichi Wakasa
1982年広島県生まれ。2008年広島市立大学芸術学部美術学科日本画専攻卒業。2010年同大学大学院博士前期課程修了、2013年後期課程を満期退学。卒業制作作品は首席相当の同大学による買い上げとなる。同年、月刊美術 美術新人賞「デビュー」 準グランプリ受賞。以後、国内外で作品を発表するのと並行し、伝統工芸の〈超創匠〉、ニューヨークのファッションブランド〈sawa takai〉、でんぱ組.incの相沢梨紗氏による「MEMUSE」などコラボレーションも多数。

ABOUT EXHIBITION

展覧会

若佐慎一 展 「ー奇想天怪ー」【東京】

会場

YUGEN Gallery
東京都港区南青山3-1-31  KD南青山ビル4F

会期

2024年11月29日(金)〜12月16日(月)

開館時間

平日:13:00〜19:00
土日祝:13:00〜20:00
※最終日のみ17:00終了

休館日

なし

レセプション日程

レセプション:11月29日(金)18時〜20時

MONTHLY WAKASA:12月2日(月)19時〜23時

在廊日

11月29日(金)、11月30日(土)、12月1日(日)、7日(土)、8日(日)、14日(土)、15日(日)

全日程 13時〜17時で在廊予定

入場料

無料

注意事項

※状況により、会期・開館時間が予告なく変更となる場合がございますのでご了承下さい。